本「なぜヒトだけが老いるのか」老後に悩む現代人への提言
いきなり下品な話で申し訳ないが腹上死という死に方がある、残された家族は散々だろうが本人は幸せかもしれない。人以外の動物は死の直前まで生殖能力があり、生殖ができなくなる頃に死の恐怖を覚えずに寿命を終える。人は生殖能力や健康を失くしてからも長く生きねばならない。これは何故なのだろうか。
人だけが老いる理由
生殖能力を失い身体が衰弱していく、老いの始まりだ。老いは人だけにある。筆者は中立進化論と最新のゲノム解析から人の老いの意味を説明する。前著「人はなぜ死ぬか」では現代社会の新しい死生観を提言した。生物は環境変化に対応するために多様性を必要とする。多様性は程よい不安定さを持った遺伝子が突然変異を起こして生まれ、その形質を次世代に伝えた後、親の世代が死ぬことで広がる。多様性を増やすために死はある。死ぬ生物だけが進化できるのだ。
「なぜヒトだけが老いるのか」では現代社会の新しい老後観が提言される。中立進化論は、人だけに老いがあるのではなく、人だけが老いがあるように進化した結果だとする。人は生存戦略とし集団で暮らすことを選んだ。集団のうち、老いて知恵や経験を蓄えた個体が存在するものが生き残った。蓄えられた知恵は災害や自然の脅威に対抗するのに有効だった。その結果、老いても生きる遺伝子が残った。
老いとは遺伝子の劣化である
紹介される生物の死と老いの仕組みは面白い。生命は、RNAがあんかけかた焼きそばのように集まりセパレートドレッシングが加わって誕生した。生命は一つのRNAから生まれたので、全て生命はRNAとDNAによって進化するようになった。DNAのコピーの方法やRNAの不安定さの説明は難しいが例が面白いので読みやすい。
老化を司る遺伝子は死の形態のよって色んな種類に分かれる。人や像は長生きするので長寿と遺伝子を修復する遺伝子を持っている。ネズミは捕食者に食べられて死ぬのを前提にして進化したので長寿の遺伝子は持っていない。ミツバチの女王と働き蜂の遺伝子は同じである。人の脳と心臓の細胞は一生入替わらず同じである。
人の細胞は分裂回数が50回と決められている。終われば幹細胞により新しい細胞に置き換えられる。老化した細胞が癌化したり悪い物質を分泌するのを防ぐためだ。普通細胞を更新する幹細胞は分裂回数の制限がない、そのため老化していきDNAのコピーが上手くできなくなる。
人のDNAのコピーエラーは55歳くらいから増えていく。エラーが増えると身体の色んな機能が低下し身体が衰弱していく。老化に始りである。動物はこの辺りで寿命を終えるので老後が無い。人は生存戦略から老後を持つが機能が低下していくで苦しくなる。更に現代人は医学の発達により長い老後を送るようになった。そのため長い老後をどう生きるかは現代社会の大きな課題になった。
共同体にシニア(老人)は必要だった
筆者は、幸せな老後を送るヒントは人が老後を持った理由にあるという。シニア(老人の年齢の定義は時代や社会で一定ではないのでこう呼ぶ)の蓄積した知恵は、集団の繁栄に大きな役割を果たしてきた。シニアは豊富な知識を持つだけでなく体力が衰え欲望が減少して利他的になる。利他性は集団の人間関係の調整や秩序の維持に役立った。
利他的な役割は集団が大きくなるほど重要になっていった。人の老後は蓄えた知恵を社会に活かすためにある。だから現代でもそのようにすればよい。ただ古代はシニアの数が少ない貴重な存在だったが、現代の老人はあまりにも数が多い。社会制度の充実と医療技術の発達が過去なら亡くなっていた人たちも長生きさせる。老人が蓄えた知恵はメモリーに蓄積され人工知能が判断する。宝石は希少だから価値がある。人は希少で無くなっても存在価値が見出せるのだろうか。
老後の役割は利他的に生きること
老人の数が増えると経験や知恵を活かす場所は減ってくる。しかし利他性を活かせる場所はどこにでもあるのではないか。進化が利他的に生きるように定めているなら、意地やプライドを捨て従って生きればよいのだ。最新の中立進化論はそう教えている。老後の意味を知ることにより良く生きるヒントがある。。
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