本 「承認欲求」 承認欲求を満たせば組織は活性化する。
現代は誰でも自分の意見を世界中に発信できるようになった。発信したら次はその意見に「いいね」が付くことを期待する。「いいね」は承認の証である。ほんの数十年前まで、特別な例を除き人は知りあいの承認だけで満足してきた。しかし今は知らない人たちからの承認がないと満足できない。多くの人が承認欲求に苦しむ時代になった。それは会社の中も同じである。
日本人の承認欲求は複雑
人は共同体で暮らすことで自然災害や捕食者の脅威に対抗してきた。共同体は円滑に維持をされることが重要だった。そのために承認欲求は生まれ人の遺伝子に組み込まれた。人は承認されると幸せを感じ否定されると孤独を感じる。人はその感情から逃れられない。
サラリーマンも承認されると嬉しくなり更に頑張ろうという気になる。会社は社員の承認欲求をうまく活かせば業績が上がる。その活用方法を説明する本が「承認欲求 大田肇 東洋経済」だ。会社は承認欲求という言葉が使われる以前から社員の欲求を利用する仕組みを作ってきた。
しかしいつも上手くいくとは限らない。承認欲求についての知識の知識が不足し正しく活かせないからだ。筆者は承認欲求の活かし方をわかり易く説明している。
日本人、とりわけ組織の中で働く人の多くは「経済人」や「自己実現人」の仮面をかぶっていても、実は他人からの承認を求め、承認欲求に強く動機づけられていることがわかる。日本人こそ、世界で指折りの「承認人」なのである。
承認欲求 太田 肇(著) 東洋経済
日本人の承認欲求は少々変わっているそうだ。承認欲求の表現のしかたは国や文化により異なる。日本人は外国の人々よりも周囲の目を意識するといわれる。承認を強く求めながらも、求めている事を他人に知られるのを嫌がる。強い欲求を持ちながら欲求を隠したい、そんな矛盾した性格を持つ。
会社員は、承認欲求に強く動機づけされながら動機を経済的価値や自己実現に置換える。外国人からみれば甚だわかりにくいらしい。この独特の承認欲求は、日本社会に存在する建前と本音の文化に由来する。承認のは表の承認と裏の承認があるのだ。
表の承認と裏の承認
表の承認は能力や成果に対する一般的な承認である。スポーツや芸術、オンリーワンの仕事、キャリアアップ、出世や栄達、特別な個性、名誉や名声、感謝などが承認の対象になり自己効率感(自信)が高まる。
裏の承認は社会(共同体や組織)を維持するための承認である。和を乱さなない、年功序列や義理を守るが承認の対象になる。裏の承認を得ないと仲間外れや人格否定をされる。やって当たり前のことなので、0点から減点法で評価される。そのため満足感が無く被統制感を強く感じる。
日本社会は裏の承認を重視する。和を乱さないことや年上を敬うことが評価される。自分を主張する表の承認欲求は抑制される。会社では「提案をしたいが目立つのは良くない」「方針は間違っていると思うが、頑張っている提案者に悪いから黙っていよう」という風に現れる。和を乱さないのが重視される。
日常の承認に飢えている日本人
今の日本は、コロナをきっかけにリモートワークが進み出社しない働き方が良いとされるが、若い社員の中には大部屋の事務所に遅くまで残る人が増えているそうだ。大部屋は、沢山の社員が集まり、意見や感謝、提案の交換が日常的に行われる。
そこでは承認される機会も増えるので心地よい。離職を減らす効果もあるらしい。部下は上司の誉める言葉や励ましを求め、上司は部下の尊敬を求める。サラリーマンはいつも承認を求めている。それが満たされないと退職にまで繋がる。
変わっているのは承認を求めるわりに出世は望まないことだ。それは、データに現れている。青年層の偉くなりたい欲求の割合は、中国34%、米国や韓国22%に対して日本はわずか8%だ。日本のサラリーマンは日常の承認は求めても出世のような将来の承認は望まない。この特徴は裏の承認が重視される社会から生まれる。偉くなろうとすれば周囲と軋轢が避けられず、和を乱すことになり、こじれると仲間外れにされる恐れがある。それを避けたい気持ちが働く。
裏の承認は被統制感を伴うので自己効率感がすくない。それを埋め合わすために日常の褒め言葉や感謝という承認を求める気持ちが強くなる。礼儀正しく親切で勤勉な日本人は、裏の承認の支配が強い社会から作られる。サラリーマンの社会も同じである。
認められないと悩んだら
日本人の承認欲求が矛盾しているから上司も部下も悩みが増える。部下は、上司の承認がないと仕事がつまらなくなり孤独を感じ、自信を喪失する。上司はリーダーシップが足りないと部下に尊敬されないと悩む。部下は上司に承認欲求をうまく伝えられない。上司は部下を誉めたいがうまく誉められない。
お互いが自分の気持ちをわかって欲しいという自縄自縛の状態になってしまう。日本はもともと以心伝心の文化があるような社会である。何も言わないでも自分を理解して欲しいという意識があるから余計そうなりやすい。だが相手の考えていることなどわかるはずはない。筆者は自縄自縛を解決する方法を以下のよう説明している。
①上司と部下、お互いが承認欲求を理解する。②部下は、承認して欲しいことを分かりやすく発信したか考えてみる。③上司は自分から感謝や誉める。④上司部下、欲求や承認を大げくらいに表現する。職場の活性化や人材育成はこれができれば簡単になる。表彰など承認欲求を叶える場をつくれば良いのである。
山本五十六の「褒めてやらずば人は動かずと言った。カーネギーは「相手を承認すれば人は動く」と言う。ドラッガーは、街の娼婦たちの人格を認め、優秀な工員として働かせた。承認欲求が満たされれば人は動く。職場の活性化に悩む管理職にお勧めの一冊。
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