本 「承認欲求」 承認欲求を満たせば組織は活性化する。

2024年3月8日

現代は承認欲求の時代と言われる。IT技術の発達によって、誰もが世界中に自分の意見を発信できるようになった。発信した人は意見に「いいね」が付くことを求める。「いいね」は承認の証にある。人は、ほんの数十年前まで知りあいの承認で満足してきたが、今は多くの知らない人たちの承認がないと満足できなくなった。多くの人が「いいね」に苦しむ時代になったのである。

日本人の承認欲求は複雑

人類は共同体で暮らし自然災害や捕食者に対抗してきた。承認欲求は共同体の生活を円滑に維持するために生まれ遺伝子に組み込まれている。私たちはみんな多かれ少なかれ承認欲求を持っている。承認されれば幸せを感じ否定されると孤独を感じる。人である限りそれから逃れられない。

サラリーマンも同じで承認されると嬉しくなって頑張って働く。社員の承認欲求をうまく活かせば業績は上がる。その承認欲求の活用方法を説明するのが「承認欲求  大田肇  東洋経済」である。会社は承認欲求という言葉が使われる前から社員の承認欲求を刺激する仕組みを作ってきた。社員もそれに乗って欲求を満たしてきた。

それはいつも上手くいくとは限らない、承認欲求の知識が少なくて活かせないからだ。筆者は承認欲求と活かし方をわかり易く説明している。ただ日本人の承認欲求は少々変わっているそうだ。

日本人、とりわけ組織の中で働く人の多くは「経済人」や「自己実現人」の仮面をかぶっていても、実は他人からの承認を求め、承認欲求に強く動機づけられていることがわかる。日本人こそ、世界で指折りの「承認人」なのである。

承認欲求 太田 肇(著) 東洋経済 

国や文化により承認欲求の現れ方は異なる。日本人は周囲の目を強く意識する。他人からの承認を強く求めながらも、求めている事を他人に知られるのを嫌がり、欲求を表すことを抑制する。強い欲求を持ちながら、欲求を隠したいという矛盾した性格を持つ。

会社でも、社員は承認欲求に強く動機づけされながら、動機を経済的価値や自己実現に置換える。外国人からみれば甚だわかりにくい。この矛盾した承認欲求は、日本社会に存在する建前と本音の文化と同根で、表の承認と裏の承認になっている。

表の承認と裏の承認

表の承認は、能力や成果に対する一般的な承認である。スポーツや芸術、オンリーワンの仕事、キャリアアップ、出世や栄達、特別な個性、名誉や名声、感謝を得るのが承認の対象である。能力や人格に対する承認であり自己効率感(自信)が得られる。

これに対し、裏の承認は社会(共同体や組織)を維持するための承認である。和を乱さないことや年功序列や義理を守るにことが承認の対象になる。裏の承認を得られないと、仲間外れや人格否定につながる。やって当たり前の行為なので、最高点が0点から原点するマイナス評価になる。そのため満足感が無く被統制感を強く感じる。

日本社会は裏の承認が重視される。和を乱さないや年上を敬うことが評価され、自分を強く表現する表の承認欲求を抑制する。会社は「提案をしたいが目立つの良くない」「方針は間違っていると思うが、頑張っている同僚達に悪いから黙っていよう」という風に現れる。和を乱さないことが重要になる。

日常の承認に飢えている日本人

コロナをきっかけにリモートワークが進んだ。出社しない働き方が好まれる言われるが、大部屋の事務所に遅くまで残る若い社員も増えているそうだ。多くの社員が集まり、意見や感謝、提案の交換が日常的に行われる。大部屋は承認される機会が増え心地よい。それには離職を減らす効果もあるらしい。

サラリーマンは日常生活での承認を強く求める。部下は、上司の誉め言葉や励ましを求め、上司は部下の尊敬を求める。その承認欲求が満たされないと退職にまで繋がる。しかし承認を求めるわりに出世はあまり求めない。

昇進に対する願望の弱さはデータにも現れている。青年層の偉くなりたい願望の割合は、中国34%、米国や韓国22%に対して日本はわずか8%である。日本のサラリーマンは日常の承認は求めても出世のような将来の承認は望まないのである。

この特徴は裏の承認が重視される社会から生まれた。偉くなろうとすれば、周囲と軋轢が生まれ和を乱す、拗れると仲間外れにされる恐れがある。裏の承認が重視される社会では将来の承認は避けられる。

ただ裏の承認は被統制感を伴うので自己効率感が足りなくなる。そのため日常の褒め言葉や感謝という承認欲求が強くなる。外国から称賛される、礼儀正しく親切で勤勉な日本人は、裏の承認に支配される強い社会から作られる。そんな社会でサラリーマンは働いている。

認められないと悩んだら

日本人の承認欲求が矛盾しているならサラリーマンの承認欲求も矛盾している。上司も部下も悩みが多くなる。部下は上司の承認がないと、仕事がつまらなくなり孤独を感じ自信を喪失する。上司は、部下に尊敬されないのは自分のリーダーシップが足りないと悩む。

部下は上司に承認欲求をうまく伝えられない。上司は部下を誉めたいがうまく誉められない。お互いがお互いの気持ちをわかって欲しいという自縄自縛の状態になっている。日本人には、わかってくれや、以心伝心のように、自分の気持ちを理解して欲しいという意識があるが、相手の考えていることなどわかるはずはない。だから、その自縄自縛の状態を解決すれば会社組織は活性化する。

筆者はその解決方法を以下のよう説明している。

 ①上司と部下、お互いが承認欲求を理解する。

 ②部下は承認して欲しいことを発信したか、わかりやすい表現だったか、考える。

 ③上司は、感謝や誉め言葉を自から言う。

 ④上司部下とも、承認欲求や承認を大げさに表現する。

これができれば職場の活性化や人材育成は簡単になるそうだ。挨拶、感謝、誉める、承認欲求を叶える場(表彰式など)をつくれば良い。「褒めてやらずば人は動かず」と言ったのは山本五十六だ。カーネギーは「相手を承認すれば人は動く」と言う。ドラッガーは、街の娼婦たちを工場で働かせるとき、人格を認めることで彼女たちを優秀な工員にした。

承認欲求を満たされれば人は動く。その方法がこの本「承認欲求」にある。職場の活性化に悩んでいる管理職にお勧めの一冊。

Posted by 街の樹