本 「残酷過ぎる成功法則」9割が間違う成功の常識

2024年9月17日

筆者エリック・パーカーは米国で最も有名なブロガーのひとりであり、ハリウッドの映画製作や任天堂ウィーの開発にもかかわるビジネス界の英才である。そんな彼が世の中のありとあらゆる成功者を分析して書いたのが「残酷すぎる成功法則」で最初の書下ろしにして全米のベストセラーとなった。

これまでの成功するための本は結果論である

監訳者の橘玲が「コロンブスの卵」のような画期的な自己啓発書だと前書きで紹介しているように、日本で出版されている「成功するための本」とは全く異なる体裁で書かれている。

これまでに書かれた成功についての本は大きく二つに分類できる。「わたしのようにやれば成功する」と個人的な成功体験から書かれたものが一つ、「お釈迦様(イエスでアッラーでもいい)はこう言っている」や「こんなとき織田信長は(豊臣秀吉でも徳川家康でもいい)はこう決断した」と歴史や哲学、宗教などの偉人を根拠にしたものが二つめである。

この二つの共通点は証拠(エビデンス)がないことだ。成功本(成功を書いた本をこう呼ぶ)の成功体験は、成功後に書かれているものが殆どである。その成功はたまたまかもしれず、同じやり方で失敗した人がいるかも知れない。成功の途中で成功法が示され、その後に成功していく過程が書かれることはない。成功を書いた後に没落する人はけっこういるが。

世の中で信じられてきた成功法則のどれが真実で、どれが空論なのだろうか。「いい人は勝てないのか」それとも「最後はいい人が勝つ」のか? あきらめたら勝者になれないのか、それとも頑固さが仇になるのか? 自信こそが勝利を引き寄せるのか? 自信が妄想に過ぎないのはどんなときか? 仕事量がすべてなのか、ワーク・ライフ・バランスを考えたほうがいいのか?

残酷すぎる成功法則 エリック・パーカー(著) 橘玲(監訳) 竹中てる実(訳

もし成功法が普遍的なものならみんなが成功者になれるはずである。それはよく言われるように全ての人が宝くじの一等を当てるようなものだ。先人の成功体験を読んで成功したという人はいる。カーネギーの「道は開ける」は今でもたくさんの人に読まれ、そのおかげで成功したと語る人もいる。

だがその人は本当に本の通りにして成功したのだろうか。何を学んで成功したのかはその人の心の中にある。「道が開ける」を読んで成功したというエビデンスはないのだ。

それなのに書店のビジネス棚はたくさんの成功本に占領されている。読者はそれを見て「自分も成功できるかもしれない」と思う。というより思うように書かれている。ただ自分がその本の内容と同じようにできると思っても、それは根拠の無い思い込みにすぎない。

更に成功本は、誰が読むのかわからないので当然だが、読者の能力の差を考慮していない。「ビル・ゲイツはこうした」と「か渋沢栄一はこう考えた」と書かれていても、ゲイツや渋沢だからそうできたのであって、あなたができるとは限らない。あなたにはできないでしょうと言っているのと同じだが、それを言えば誰もその本を買わないので、あたかも成功の黄金律があるかのように作家や出版社は編集する。

結局は、証拠(エビデンス)はないのである。そんな世界に証拠を持ち込んだのが、「残酷すぎる成功法則」のエリック・パーカーなのである

同著

高校の首席は億万長者になれない

筆者は、多くの成功者の職業、経歴、生い立ちや性格など広範囲の分析から成功の法則にアプローチをした。色んな分野の成功者を選んで、客観的に共通するデータがないか探したのである。

過酷な耐久自転車レースの覇者ジェア・ロビックは性格破綻者だった。誰もが知る天才ピアニスト、グレン・グールドは普通の生活ができない、水泳選手マイケル・フィリップは地上生活に向かない体形、ニュートンは引きこもり、「Mrインクレディブル」のヒットでピクサーを救ったのはみ出し者の集団だった。

分かったのは、成功者は大きな長所と共に大きな欠点を持っていることである。良く言えば成功者は際立った個性を持っていた。逆もある、高校の首席はなぜ億万長者になれないかを調査している。首席なのに億万長者に成れないのは「万事をそつなくこなすが、特定分野に全身全霊で打ち込まない性格」のせいだった。彼らは大きな短所もないが大きな長所もなかった。

メキシコの貧しい少年イノホサは漫画のスーパーヒーローに憧れて、メキシコから米国に密入国して努力してスーパードクターになった。ウォーターズは競泳の米国代表の夢に破れたが、シールズの過酷な試験に挑戦隊員になる。登山家シンプソンは、アンデス山中で遭難し絶体絶命の危機に陥ったが、脱出をゲームのように楽観的に考えて生還した。彼らに共通するのはけっして諦めない性格だった。

エルディッシュはあまりに多くの数学者と仕事をしたので、すべての共同研究者を覚えていないほどだった。あるとき、エルディシュはであった数学者に住まいを効いた。「バンクーバーです」「おお、それなら私の良き友人エリオット・メンデルソンをご存じですか」「私が、あなたの良き友人エリオット・メンデルソンです」

同著

数学者ポール・エルディッシュは、世界中の数学者の間に、エルディッシュ係数と呼ばれる大きなネットワークを築いたことで有名である。数学者はその繋がりに入れたことを自慢した。そのネットワークから16人のノーベル賞受賞者が誕生したのだ。ただ彼は意識して人脈つくりをしたわけでなく、ただ仲間を助けているつもりだったのだ。彼は奇行でも知られていた。

成功は金や地位だけではない

調査の結果、成功には性格が大きく影響することが分かったが。犯人の信頼を得る人質交渉人、客の心を掴む一流コメディアン、成功するギバー(与える人)とテイカー(与られる人)たちが成功している。法則を探って行くと、成功は生まれ持った才能や性格にあるのだけではないのが分かった。

成功から思い浮かぶのは大金持ちや権力者の姿だが、登場する人物たちのエピソードは、本人は自分が成功している自覚は薄く、自分のやりたいことをやっている意識が強いことを示した。成功者にとって、成功とは地位や名誉でなく自分の望みが叶うことであり、成功に憧れるだけの人が思う成功とは定義が異なる。

他にも、客観的なデータが集められた。内向的と外交的性格のどちらが有利か、信じる心は成功へ繋がるか、仕事馬鹿は成功するか。スパイダーマン、アインシュタイン、チンギス・ハンまで分析されている。その結果、成功の条件は普通の人にとってけっこう残酷なものだった。

この本の法則を知ると、自分は成功の才能が無いと落ち込むかもしれない。成功できると嬉しくなるかもしれない。筆者は最後に成功の概念について新しい見解を述べている。成功に必要なのは自分がどのような人間であるかを知り、どのような人間を目指したいのかを考え、そのバランスを調整することだ。成功者はやりたいことに夢中になりながら、成功を意識せずにやっている。成功は自分がなりたい人間に成れた状態を言うのである。

色んな人物の面白いエピソードが満載である。そのひとつひとつから「成功の法則」がなんとなく分かってくる一冊。