本 「残酷過ぎる成功法則」9割が間違う成功の常識

2024年11月10日

筆者エリック・パーカーは米国で最も有名なブロガーのひとりであり、ハリウッドの映画製作や任天堂ウィーの開発にもかかわるビジネス界の英才である。そんな彼が世の中のありとあらゆる成功者を分析して書いたのが「残酷すぎる成功法則」で最初の書下ろしにして全米のベストセラーとなった。

これまでの成功するための本は結果論である

監訳者の橘玲が「コロンブスの卵」のような画期的な自己啓発書だと前書きで紹介しているように、過去に日本で出版された「成功するための本」と全く異なる体裁で書かれている。

成功についてこれまでに書かれた本は大きく二つに分類できる。「わたしのようにやれば成功する」と個人的な成功体験から書かれるものが一つ、「お釈迦様(イエスでアッラーでもいい)はこう言っている」や「こんなとき織田信長は(豊臣秀吉でも徳川家康でもいい)はこう決断した」と歴史や哲学、宗教などの偉人の言動を根拠にしたものが二つめである。

二つの共通点はどちらも証拠(エビデンス)がないことだ。成功本(成功を書いた本をこう呼ぶ)の成功方法は、殆どが成功後に書かれている。その成功はたまたまかもしれず、同じやり方で失敗した人がいるかも知れない。実績をあげる途中で成功法が示されることもない。結果論で書かれるのが殆どだ。成功本を書いた後に没落する人はいるけれど。

世の中で信じられてきた成功法則のどれが真実で、どれが空論なのだろうか。「いい人は勝てないのか」それとも「最後はいい人が勝つ」のか? あきらめたら勝者になれないのか、それとも頑固さが仇になるのか? 自信こそが勝利を引き寄せるのか? 自信が妄想に過ぎないのはどんなときか? 仕事量がすべてなのか、ワーク・ライフ・バランスを考えたほうがいいのか?

残酷すぎる成功法則 エリック・パーカー(著) 橘玲(監訳) 竹中てる実(訳

もし成功法が普遍的なものなら誰でもが成功者になれる。よく言われるようにみんながが宝くじの一等を当てるようなものだ。先人の成功体験を読んで成功したという人はいる。多くの人がカーネギーの「道は開ける」を読み、その中に本のおかげで成功したと語る人もいる。だがその人は本の通りにして成功したのだろうか。何を学んで成功したかはその人の心の中にある。「道が開ける」を読んで成功したというエビデンスはない。

書店のビジネス本の棚はたくさんの成功本に占領されている。読者はそれを見て「自分も成功できるかもしれない」と思う、というより思うように書かれている。だがその本の内容と同じことができると思っても、それは根拠の無い思い込みなのだ。

更に成功本は、誰が読むのかわからないので当然だが、読者の能力の差を考慮していない。「ビル・ゲイツはこうした」と「か渋沢栄一はこう考えた」と書かれていても、ゲイツや渋沢だからそうできたのであって誰もができるとは限らない。あなたにはできないと言っているのと同じだが、強く言えば誰もその本を買わないので、作家や出版社はあたかも成功の黄金律があるかのように編集する。

結局は、証拠(エビデンス)はないのである。そんな世界に証拠を持ち込んだのが、「残酷すぎる成功法則」のエリック・パーカーなのである

同著

高校の首席は億万長者になれない

そんな成功本と異なり、筆者は、多くの成功者の職業、経歴、生い立ちや性格など広範囲の分析から成功の法則にアプローチをしている。色んな分野の成功者を選び客観的に共通するデータがないか探した。

ジェア・ロビックは、過酷な耐久自転車レースの覇者だったが性格破綻者だった。誰もが知る天才ピアニスト、グレン・グールドは普通の生活ができない、水泳選手マイケル・フィリップは地上生活に向かない体形をしていた、ニュートンは引きこもりのオタクで「Mrインクレディブル」のヒットでピクサーを救ったのはみ出し者の集団だった。

調査の結果分かったのは、成功者は大きな長所と共に大きな欠点を持っていることだった。成功者は際立った個性を持っている。逆の例は、高校の首席はなぜ億万長者になれないかにあった。首席が億万長者に成れないのは「万事をそつなくこなすが、特定分野に全身全霊で打ち込まない性格」のせいだった。彼らは大きな短所もないが大きな長所もなかったのである。

メキシコの貧しい少年イノホサは漫画のスーパーヒーローに憧れて、メキシコから米国に密入国し努力してスーパードクターになった。ウォーターズは競泳の米国代表の夢に破れたが、シールズの過酷な試験に挑戦して隊員になった。登山家シンプソンは、アンデス山中で遭難して絶体絶命の危機に陥ったが、脱出をゲームのように楽観的に考えて生還した。彼らに共通するのは決して諦めない性格だった。

エルディッシュはあまりに多くの数学者と仕事をしたので、すべての共同研究者を覚えていないほどだった。あるとき、エルディシュはであった数学者に住まいを効いた。「バンクーバーです」「おお、それなら私の良き友人エリオット・メンデルソンをご存じですか」「私が、あなたの良き友人エリオット・メンデルソンです」

同著

数学者ポール・エルディッシュは、世界中の数学者の間に、エルディッシュ係数と呼ばれる大きなネットワークを築いたことで有名である。16人のノーベル賞受賞者がそのネットワークから誕生している。多くの数学者はその繋がりに入れたことを自慢した。エルディッシュは、意識して人脈つくりをしたわけでなくただ仲間を助けているつもりだったのだ。彼も奇行で知られていた。

成功は金や地位だけではない

調査は、犯人の信頼を得る人質交渉人、客の心を掴む一流コメディアン、成功するギバー(与える人)とテイカー(与られる人)の成功者や、スパイダーマン、アインシュタイン、チンギス・ハンまで及ぶ。他にも、内向的と外交的性格のどちらが有利か、信じる心は成功へ繋がるか、仕事馬鹿は成功するかなどが分析されている。 

その結果、成功には生まれ持った才能と共に性格が大きく影響することが分かった。才能と際立った性格が揃わないとできない、という身もふたもない結果だった。更に分かったのは成功者にとって成功の概念が一般人と異なることだ。自分がやりたいことをやっているだけで成功している自覚が薄い。彼らにとって成功とは地位や名誉でなく自分の望みが叶うことなのである。

ここに示される成功の法則を知ると自分は成功しようが無いと落ち込むかもしれない。逆に性格が際立っているから成功できると嬉しくなるかもしれない。最後に筆者は成功について纏めている。成功に必要なのは自分がどのような人間であるかを知り、どのような人間を目指したいのかを考え、そのバランスを調整することだ。それができれば、大金持ちでなくても成功者である。成功者はやりたいことに夢中になりながら、それを成功を意識しないでやっている。成功はやりたいことに夢中になった結果なのである。

色んな人物の面白いエピソードが満載である。そのひとつひとつから「成功の法則」がなんとなく分かってくる一冊。