本 「振り向けばアリストテレス」アリストテレスが現代社会を切る

2025年3月23日

もしもアリストテレスが今の日本に蘇ったら、のお話である。アリストテレスは、変化する国際情勢に対応できず、経済は停滞し少子化や移民問題に苦しむ日本に転生する。彼は街で出会う、女子大生、小説家、政治家や政治家秘書と対話をしながら、現代人が抱える悩み、恋やスピーチの仕方、政治の在り方などを、ニコマス倫理学、弁論術、政治学を使って解決していく。

アリストテレスの哲学に現代の問題を解決するヒントが詰まっていた。現代人との対話を聞くうちに難しいアリストテレスの哲学が理解できてくるのが面白い。

アリストテレスと対話する現代人たち

愛の研究は、実際に愛し愛される人間となるものでなければ意味がないのだ。

アリストテレス 振り向けばアリストテレス 高橋健太郎(著) 柏書房

女子大生猫石ナツメは合コンで失敗し「絶対好きな人に好かれる本」を購入しようとする、そのとき変わった格好をした外国人から声をかけられる。その男は「愛は小手先の技術ではない、美しく愛されるためには美しい愛の本質を知って実践しなくはいけない」とナツメを諭す。

彼の言葉は妙に説得力をもっていた。ナツメにすれば身の毛もよだつ恥ずかしい言葉をなぜか妙に気に入ってしまう。ナツメがあなたは誰かと尋ねるとアリストテレスと答えるのだった。紀元前4世紀のギリシアから転生したアリストテレスが最初に遭ったのが愛を求める女子大生ナツメだった。

アリストテレスとナツメ、ナツメの友人寒月迷子との対話が始まる。アリストテレスはナツメにニコマス倫理学を講義する。愛とはどういうものか、人はどのように愛されるべきか。人は幸福に生きるべきであり幸福とは徳に従って生きることだ。

人はロゴス(理性のようなもの)従って生きれば徳を持てる。徳は不足なく過剰でもなくて中間であるのが正しい中間とはどこか、それはロゴスが教えてくれる。徳は身につけられるものだ。古代の大哲学者と現代の女子大生の会話が妙に噛み合い、読むほうも納得してしまう(作者が噛み合わせているのだから当然だが)

人は徳ある者のように振舞うことで、徳ある者になるのだ。

同著

ナツメは、対話を続けるうちに恋する先輩から愛される徳を持とうと決心する。アリストテレスはナツメ以外の色んな職業の人達と対話を続ける。そして相手の悩みを解決していく。彼と対話した人は悩みの答えを得るだけでなく新しい生き方を見つける。アリストテレスとユーモラスな対話をするのはこのような人である。

恋に悩む女子大生        ニコマス倫理学

スピーチが下手な編集者         弁論術  

スキャンダルに巻込まれた政治家の秘書  政治学

泣かせる小説が書けない落ち目の小説家   詩学  

アリストテレスの日記          問答集 

心霊研究家              形而上学

アリストテレスと現代人の対話

政治とは、人間にとっての善、つまり幸福を作り出す技術であり、だからこそあらゆる技術の中でも最も重要な技術である。また政治とは、正しさを作る技術でもある。この場合の正しさとは、人間の間の平等である。

同著

政治家秘書の坂上雲助は政治活動に疑問を感じていた。坂上は「政治とは人にとっての善を作り出す技術であり、中間層の人々のためにされるべきである、そうすれば極端な政治は避けられるのだ」というアリストテレスの政治論に引き込まれる。さらにアリストテレスは坂上が仕える代議士刈屋にも講義する。

「意図的に法を犯すのは不正である、政治を不安定にするのは不平等である」これを聞いた代議士と秘書は新しい政治を行いたいと思う。(政治がうまくいかない)古代ギリシアに奴隷制度があったことは考慮しないといけないが、アリストテレスの政治論は現代に十分通用するのだった。(政治がうまくいかない)

弁論術 詩学 形而上学

彼はスピーチが苦手な出版社員来島ノブに弁論術の講義を行い(スピーチをうまくやりたい)泣ける小説が書けないと悩む作家に詩学の講義を行う(泣ける小説が書きたい)問答集では二日酔いのアリストテレスが自分自身と対話する(二日酔いを直したい)アリストテレスの登場で混乱した社会の状況を形而上学で説明する(まったく、いったいなんなんだ)

そのアリストテレスは何故かメン・イン・ブラックのような男たちに追われている。彼らから逃れながらあるときは倉庫の管理者あるときは中華料理屋の店員と色んな仕事をしながら対話を続ける。

難しいアリストテレスを面白く読ませる

アリストテレスの名前は誰もが知っているが著作を読んだ人は少ないだろう。彼の著作はとにかく内容が難しい。筆者高橋健太郎氏は難解な哲学を現代を舞台にした短編小説に仕上げている。読み進めると難解な哲学がなんとなく理解できるのが不思議だ。

彼は古代ギリシアにおいて万学の祖と言われる業績を残した。紀元前において人はどう生きるべきかの答えを出していた。人に一番必要なものは徳であり、徳は極端をさけ中間であらねばならないとする。その思想は現代でも十分に通用する。現代は極端から極端に走りやすい、社会は分断され中庸や寛容が忘れられている。アリストテレスは現代人に中庸の大切さを教えてくれる。極端と分断の世界に暮らす人のための一冊。

ナツメと迷子はアリストテレスと分かれるとき、ユニムラのハイパーストレッチのチノパンとい白いワイシャツをプレゼントする。ヒマティオン(古代のギリシア服)を着ているアリストテレスが、白いワイシャツとチノパン姿で書店にいたら愉快だろう。

Posted by 街の樹