本 「世界滅亡国家史」48の国の滅亡の物語
ロシアのウクライナ侵攻は、現代においても力による国境の変更が起こることを世界に示した。中国の台湾侵攻も現実味を帯びてきている。世界の人の国家に対する関心が高まっている。日本人は国家は確固たるものと考え国連によって秩序が守れてると信じている。だが国家の定義や確固としている理由を問われたら日本人は答えられるのだろうか。
教科書に登場しない滅亡国家
筆者ギデオン・デフォーの国家の定義についての問いかけは面白い。定義は、国連に加盟していることか、ワールドカップでサッカーができることか、ユーロビジョン・ソング・コンテストに参加していることか、それともチーズを食べる人たちの集まりか。問われると国家の定義は意外と厄介なのだ。
ロシアが侵略したウクライナ東部は、世界の常識(といっても先進国の常識)によると、ウクライナの領土であるのは間違いない。しかしそこに住む親ロシア派(送りこまれた人も含めて)の言い分はちがう。国境線はソ連崩壊時に為政者が勝手に決めたものに過ぎない、国境線が間違っているとなる。これを言い出すと世界は混沌に帰ってしまうので、戦後の国境線を一方的に武力で変更するのはいけないと決めている。
過去に定義のあやふやな国家はたくさんあった。その大半は人に知られないうちに建国されていつの間にか滅亡している。筆者はそんな国家に注目して一冊の本にした。選ばれた国家は殆どが教科書に乗っていないもので48国ある。その歴史はとても面白い。
ボトルネック共和国という国名から怪しい国がある。第一次世界大戦集結後、戦勝国はフランスとドイツの国境ラインを適当に引いた。そのためにどちらの国にも属さない、ワインボトルの首に似た空白の土地ができてしまった。その土地に暮していた住人は、突然フランス人でもドイツ人でも無くなった。
彼らは仕方がなく新しい国を作ることにした。国名をボトルネック共和国にして、首都をロルヒにおいて政府をつくり貨幣を発行した。ただ何も良い所が無い土地だったのですぐに無法地帯になってしまう。最後はドイツの債権のかたにフランスに取られるが、それまで無法地帯だった。ボトルネック共和国は、国民も領土も貨幣も首都もあったが存続できなかった。借金の担保にしか成れなかった。
エルバ公国 ナポレオンの退屈しのぎの国
有名なナポレオンが一時統治した国もある。ナポレオンは戦いに敗れて大陸からエルバ島に流される。各国は、彼に国を与えておけば退屈せず新たな野心を持たないだろうとエルバ公国を与えた。最初は真面目に国家建設に取り組んだがあまりに退屈すぎて国を放棄する。統治者の気紛れでエルバ公国はエルバ島に戻ってしまった。
南太平洋の島々、今のバヌアツの一地方にフランスヴィルという国が作られた。原住民は自分たち以外はみんな食べるという断固たる意志を持っていた。支配者も宣教師も遭難者もみんな食べられて国は滅亡する。
国を作った男たちの人生を眺めると、奇妙な共通点があることに気づく。父親を無くしている、母親に溺愛されている、浮気者、かつて軍人か文筆家だった、金遣いが荒い、夢想家の傾向がある・・・
世界滅亡国家史
19世紀から20世紀初頭は、詐欺師や権力欲の強い個人が国を作った時代だった、権力欲や名誉欲などの欲望から国ができるのが不思議だが、建国者たちの途轍もないエネルギーに呆れてしまう。そんな名前が知らていない国家建設者は多くいる。
フィウメ・エンデバー国のダヌンツィオ
トリニダード公国のハーデン=ヒッキー
コルシカ王国のテオドール・フォン・ノイホフ
セダン王国のマリー=シャルル・ダヴィッド・ド・マイレナ
彼らはほんとうに国家を作っていた。国を興すのはアレクサンダー大王やチンギス・ハーンのような英雄ばかりではないのである。個人の欲望の産物の国家は直ぐに危機を迎える。コルシカ王国のノイホフは、素晴らしい容姿と弁舌と詐欺によって建国に成功するが、金策で渡ったオランダのパブで飲んでいるときに詐欺罪で逮捕されてしまう。
あっという間にできて、あっという間に無くなった国たち
米国のカリフォルニアの一部の住民は、金の採掘税が課せられることに反対してラフ・アンド・レデイ大共和国を建国した。米国は新しい独立国に酒を売らなかった。大共和国の国民は独立をすぐに取り下げた。
リオデグランデンセ共和国は、ブラジルのガウチョたちがビーフジャーキーの販売を禁止されたことに対し反乱を起こして作った国だ。彼らはブラジル軍と長い間戦うが、ビーフジャーキー販売の許可を勝ち取ると独立の意思は急速に萎んだ。それは国家というより大掛かりなデモだった。
単なる欲望や詐欺、不順な動機、大国の手抜きで出来た国は、ちょっとしたきっかけで滅亡してしまう(そうでない国家もあった)筆者は滅亡の原因を四つに分類した((の数字)は筆者が追加)世界がまだ混沌としていた大航海時代は国家が簡単に誕生した。現代は国連のもと確固たる世界秩序が確立されている筈だが、ISやロシアは秩序が幻想であり、国家は為政者と国民の思い込みの上に成り立つ砂上の楼閣であることを示した。
命知らずと変わり者 「変人」のせいで滅亡した世界史 (24国家)
誤りと自称独立国 「間違い」がもとで国ができたり滅んだり (11国家)
嘘と失われた王国 国家は以外と「虚言」で始まり終わる (9国家)
傀儡と駆け引きの道具 「他国」に振り回された滅亡史 (13国家)
世界滅亡国家史
国家の三要素
国家の定義は一般的に、領土(領域)、国民(人民)、政府(権力)が三要素とされる。ロシアのウクライナ侵攻について、元大阪府知事の橋下氏などは、住民は一旦その地域をロシアに渡して逃げろ、プーチン大統領が居なくなったら戻れば良いと主張したが、ロシア人が住みついて行政府が置かれれば、国家の三要素がロシアに移ってしまう。実行支配というやつだ。
プーチン大統領がいなくった後、ウクライナ人が戻ろうとしても既にロシア人が住んでいる、その人達を追い出さねばならない。今度はウクライナが侵略者である。世界の国がロシアのウクライナ東部の併合を承認しなくても(中国やアフリカの国の一部は承認するかもしれない)ロシアの領土になる。それがわかっているからウクライナは戦い、世界はそれを支援をしている。橋下氏流の屁理屈は国家間の厳しい現実には通用しない。
アカデミー賞ノミネート作家の世界滅亡国家史
筆者ギデオン・デフォーはオックスフォード大学で考古学と人類学を専攻した。また有名なアニメの脚本家でもあり作品はアカデミー賞にノミネートされたこともある。彼の才能は滅亡した国家の選び方と皮肉とユーモアが効いた語り口に現れている。
彼は歴史上よく知られた国も選んでいる。城で有名なバイエルン王国、清末の太平天国、モンゴルに滅ぼされたホラズム、ヴェネツィア、台湾(戦前)やユーゴスラビアである。それらの国の滅亡(というほど厳しくないのもある)のドラマは歴史の教科書に書かれたものより数段面白い。面白い歴史の教科書はないがそれを差し引いてもデフォーの本は面白い。
第2時世界大戦中、北米にオタワ市民病院産科病棟という国家が一瞬存在した 。本国がドイツに侵攻されたためカナダに亡命していた王女に長女が産まれようとした。オランダの法律はオランダ領土以外で生まれた子供は王族の資格がないと定めている。そのときカナダが粋な図らいをした。どのような図らいだったのかぜひ読んで頂きたい。
世界の殆どの人は世界秩序の安定を望んでいる。現代は近代国家が続々と作られた時代と大きく異なる。それなのに、ロシアはウクライナを占領するだけでなく、南オセチア共和国やルガンスク人民共和国を作ろうとしている。プーチン大統領の思惑だけで作られる二つの国家が「世界滅亡国家史」に追加される日は近いのではないだろうか。
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