本 「 最強の早期リタイア術」 FIREを達成した極貧の少女  

2024年3月5日

筆者クリスティー・シェンは中国の極貧の村の生まれである。7歳のときに両親と共にカナダに渡る幸運にめぐまれた。その機会を逃さずカナダで努力を積み重ね、31歳でミリオネアになってリタイアをした。現在はパートナーと世界旅行を楽しみながら作家としても活躍している。

Young woman using laptop computer on a beach. Freelance work concept

中国の極貧の村に生まれた少女がどのようにして百万長者になったのか。彼女はFIREはどのような境遇にあっても実現可能であることを自ら証明している。最初彼女が持っていたのは中国で養った強い信念だけだった。FIREは強い意志を持ち実践法を知れば可能なのである。

30代で経済的自立を達成するための全技術

FIREはFinancial independence retire earlyの略である。節約と投資で金融資産を増やし、利子や配当で暮らせるようになれば早期に仕事を辞めて自由に暮らすことだ。この本はFIREの源流「Your money or your life」や「Early Retirement Extreme」の流れにある、彼女のブログ「Mr Money Mustache」と同じく最新の実践書だ。

最速でお金から自由になる究極メソッド Financial independence retire early

この本は能天気な自己啓発の本ではありません。「自分のことを金持ちだと思え」とか、「ポジティブに考えよう」とか「宇宙のエネルギー調和せよ」とか、そういったことがカギではりません。私は、そういった類の本を読み、彼らのアドバイスに従ってみましたが、どれもうまくいきませんでした。

FIRE 最強の早期リタイア術 クリスティー・シェン&プライス・リャン(著) 岩本正明(訳) ダイヤモンド社

クリスティーが生まれた村は、毛沢東の大躍進計画によって大勢が犠牲になった。彼女は一日44セントの暮らしをしながら古い中国の教え「吃苦」を学んだ。吃苦は痛みを飲み込むことである。中国の農民は吃苦によって時々の圧政に耐えてきた。その教えと共にお金の重要性も学んだ。庶民は、政府を信用せずお金と一族だけを信じるのである。

彼女が7歳のときに幸運がやってきた。両親と家族が中国の政策によってカナダに移住できることになったのだ。カナダに渡ってもお金の大切さと吃苦は忘れず、缶詰の底に残ったシロップをおやつにしながら勉強に励んだ。そして創造力や適応力、忍耐力や回復力を身に付けた。

作家になるのが夢だったが、大学ではコンピューター・エンジニアリングを専攻する。夢とエンジニアを比較すると、貯蓄に有利なのはエンジニアだと判断したからだ。お金を貯めるのを最優先にしたのである。

夕方のひととき、何を思う

FIRE 最強の早期リタイア術 30代で経済的自立を達成するための全技術

クリスティー・シェン&プライス・リャン(著)   岩本正明(訳) ダイヤモンド社

金融資産形成法

彼女はお金以外の余計な事は考えない。しかしお金そのものを目的にはしない。将来の夢を叶えるために、若いうちは苦労してお金を貯めるようと考えた。暫くは我慢して資産形成をして、人生を楽しめるうちにリタイアして歓びを得るのを目標にした。

ハンガーを使った洋服の節約法、株式市場の暴落を乗り切る方法、インデックス投資の活用など、彼女の資産形成法は徹底しでいる。その反面、4%ルールの課題、子供を持つこと、早期リタイアのマイナス点も率直に述べている。借金は福利の吸血鬼、ファンドマネジャーは銀行強盗、住宅資産は投資対象ではない、と厳しく批判する。彼女は中国時代に覚えた吃苦に従い自分以外の誰も信じない。資産形成法も自分で考える。

経済基盤の確立が夢につながる

吃苦の精神は、米国流の資産形成法に出会うと大きな成果を上げた。中国人の強烈な欲望は欧米の経済市場でとんでもない力を発揮する。中国は、変動相場制がルールの世界に、14億人の需要を餌にして実質的な固定相場制を認めさせている。他人のフィールド上で自分のルールで戦う、そのメンタルの強さは驚くしかない。

彼女は資産形成のために作家という夢を諦めたが、ブログをきっかけにベストセラー作家になった。若いうちに経済基盤を固めれば、夢を達成する時間は残されている。日本では、夢を叶えるためには赤貧に甘んじたり下積みで苦労するのが普通である。お金をためて夢を叶えるという考え方とは随分違う。世界には色んな考え方があるものだ。

彼女は、米国の資産形成法に精通しており具体的な実践法が注目されるが、一番注目されるべきはその強い意志だ。精神論は述べないがその強さは随所に現れる。彼女の意志をもってすれば、どのような世界でも成功しただろう。FIREを達成するのは強い意思なのである。

中国人のお金の考え方は凄い

中国人のお金にたいする思考は強烈である。徹頭徹尾自分中心で他人や政治は信用しない。日本特有の気配りや世間さまとは無縁である。自由主義経済の慣行を破るのも平気だ。日本でFIREを達成できるかの議論が続いているが、中国人のような強烈な意志があれば達成は可能と思える。この本は、FIREの達成法を学べると共に、何につけても甘い日本人の姿を教えてくれる一冊である。