父の日 父の承認欲求 平均的な父親ってのはたくさんの励ましを必要とするものさ
「平均的な父親ってのは、たくさんの励ましを必要とするものさ」とチャーリーブラウンは言った。それを聞いたスヌーピーがどう答えたのかは分からないが、ポパイがほうれん草、ウィンピーがハンバーガーを必要としているように父親には励ましが必要なようだ。
しかしそれを言うと男らしさが足りないと大抵は却下される。昨今女らしさという言葉は使っていけないが、男らしさはいくら使ってもよいのである。
定年後の父は寂しい、承認欲求が満たされないから
母の日があるように父の日もある。母の日ばかりでは社会のバランスがとれないと考えた人がいたのか、と思ったらその通りだった。「母をたたえる日があるならば、父をたたえる日があるべきだ」と、ソノラ・スマート・ドットという女性が米国の牧師教会に掛け合ってくれた。そのおかげで１９６９年、６月の第３日曜日が父の日として米国の記念日になった。
ただ、なったものの、もとから付け足しだから注目度は母の日に全く劣る。そもそも祝われる父親に自覚が足りない。贈る方の子供の半分である息子たちが父親に興味がない。父親は父親で、仕事や家庭を守るために頭をいっぱいにして走り回っている。それどころでないのだ。
子供が幼稚園の頃は絵や工作のプレゼントを貰える。それは成長するにつれて減っていき、いつしか家庭内のイベントから父の日は消える。母の日の花がカーネーションであるのはみんな知っているけれど、父の日の花が黄色いバラだと知っている人がどれだけいるだろうか。カーネーションに比べるとなんともはやである。
そんな父親だが、チャーリーブラウンが言うように励ましを必要としている。現役の頃はたくさんの励まし（評価と言っても良い）を会社やお客から貰っていた。もちろん家族からも貰うが、その数は会社やお客からが圧倒的に多い（逆もあるが）
作家・渡辺淳一氏は「サラリーマンはつらいよね。偉くても偉くなくても、定年がきたらスパッと仕事をやめなければならないからね。自由業は自分で決められるけどね」とある講演会で言っている。サラリーマンは、自分の意志と関係なく定年と同時に職場もそれに伴う人間関係を一晩で失くしてしまう。
会社では、社員や関係先の多くの人に出会う。相手は何らかの形で承認を与えてくれる。会社を辞めるとそれらは無くなる。それまで、幼稚園から大学、会社と承認を得られる次の社会がずっと用意されていた。だが定年後はそれがない、自分で勝手にやってねの世界になる。趣味やボランティアをすれば良いじゃないかと言われても、いまさらそんな面倒臭いことはできない。承認の数の大幅減がやってくる。
仕事から開放された心地よさ、趣味の楽しみ、もう仕事に戻る気はないと生活に満足しても、承認の減少はけっこう寂しい。オーストラリアの母の日の起源は「養老院で暮らす忘れられた母親たちに花を贈る運動」だが、社会から忘れられた父親もなかなか辛い。ある程度の励ましすなわち他者からの承認が欲しいのである。
父の日の贈り物、それは父のへ承認
定年を迎えると人生の区切りがついたと考える。身体はまだまだ元気だが若者のようにはいかない。人生を汽車の旅（電車より雰囲気がでる）に例えると、定年は終着までに残された駅の数が分かってきたという所である。Memento moriだ。座席で本を読むとき、若者はあの本もこの本も読みたいと考える。老人はこの本の何ページまで読めるだろうかと考える。
駅に着くにはまだ時間はある。その時間を楽しむ人もいれば楽しめない人もいるが、共通するのは独りの時間が増えることだ。独りになれば過去を振り返る時間も増える。大げさに振り返り返えらなくても思い出がふと浮かぶ。
子供と過ごした思い出は子育てが正しかったのかという疑問が伴う。父親は口に出さなくてもそんな気持ちを持っている。その回答の一つが子供からの贈り物がある。プレゼントは子供からの父への承認であり励ましである。人は承認されると幸福になる。
贈られた酒を飲む、これぞ定年の醍醐味
貰ったものが酒ならば、明日を考えずに独りで飲む。品物なら傍らにおいて眺めて楽しむ。細い雨が緑を濡らしている、庭に紫陽花の花が咲いている。そんなふうに梅雨の日を楽しめたら幸せだろう。
父の日は、トッド夫人のおかけだと書いたが彼女の父は偉かった。南北戦争から復員して直ぐに妻を亡くし、苦労しながら5人の男の子と1人の女の子を育てた。この親にしてこの娘ありである。