本 「お金から自由になる法則」お金から自由になれるか
ボード・シェーバーはヨーロッパの有名な投資家である。20代に事業に失敗して大きな借金を背負うが30代に利子で暮らせるほどの資産を築いた。現在は「マネーコーチ」として執筆や講演を行っている。彼の経歴は著書「お金から自由になる法則」に大きな説得力を与えている。「金持ちになる法則」や「お金から自由になる法則」は本当にあるのだろうか。
お金から自由になる法則、三つの疑問
人はお金の法則を受け入れるタイプと懐疑的になるタイプに分かれる。懐疑派の主張は「みんなが成功する法則はない(全員に一等が当たる宝くじはない)」「彼だからできた(法則でなく能力だ)」「お金持ちになってから、お金を失う心配は辛い(そう思いたい)」である。
主張はもっともだが、法則を全く否定するものではない。みんなに一等が当たる宝くじは無いのは事実である(あれば買いたい)、だが宝くじは買った人の宝くじが全て一等にならないといけないが、お金持ちになる法則はそこまで厳格でなくてもよい。お金持ちの定義や望む資産の額は人によって異なる。法則の対象は宝くじを買わない人、すなわち法則を知らない人も対象になる。
お金持ちは、お金から自由になる法則を必要としない。貧しくてもお金に興味がない人もいる、思想信条や宗教からお金を否定する人もいる。お金の法則を知らずに終わる人はずいぶんいる。法則があるかどうかは別として、法則を知る人の数だけ一等があれば良い、みんなに一等を用意する必要はない。法則を知った(本を読んだ)人だけに当たれば良いのだ。
「彼だからできた」も事実である。冬季オリンピックを見ると余計そう思う。ハーフパイプやジャンプで空を舞う青年や、時速130kmで斜面を滑降する女性は同じ人間とは思えない。彼らや彼女だからあれはできる。幸いなことにお金を使ったり貯めたりは誰でもできる。オリンピックの選手のような特別な能力はいらない。車の運転のようなもので、誰でも遠くへ行こうと思えば、時に事故が起きるが、行けるのだ
お金持ちになったら心配が増えるはお金持ちになったことがないので残念ながら分からない。年収40億円のジョニー・デップが破産寸前だとか、生涯年収200億円のロナウジーニョが破産するのだから、お金持ちにも心配事はあるに違いない。
日本にもスケールの大きい破産した大富豪がいた。薩摩治郎八は、明治から昭和のパリの社交界で活躍してバロン薩摩と呼ばれた。彼は現在の価値で600億円を交際費に使いきった。晩年は無一文になり鹿児島の4畳半で暮らしたという。金持ちにも心配ごとは存在するだろうが、金持ちになってから考えても遅くはない。
日本人はお金に否定的
アメリカやヨーロッパで金儲けの本ははたくさん出版されている。金持ちになった人は体験を本にして更にお金持ちになる。読者はそれを読んで金を貯めようとする。金持ちもそれを目指す人も金儲けに対して妙なこだわりが無い。
日本人の金儲けに対する感情は複雑だ。岡本和久氏は、高校生に投資などの金融教育を行っている。彼が500人の学生にお金のイメージを問うたところ8割の学生が金は汚いものと答えた。世界的な金融リテラシーのテストの正解率は、欧州、米国、日本の順で日本が最下位になる。
日銀の資産調査でも、株や債権の保有率が 日本17%、米国52% 、欧州32%とこれまた最も少なかった。ただ貯金は、日本52% 、米国13% 、欧州33%となり日本人の貯金好きと米国人の投資好きが際立つ。
日本社会は、金儲けに悪いイメージをもち清貧や質素倹約を尊ぶ。製造業の企業はプロジェクトXが高視聴率を取ったように素晴らしいとされる反面、IT関連や金融関係の企業はなんとなく胡散臭さく見られる。だがテレビには競馬や宝くじのCMが流されパチンコ店が街なかに堂々とある。セレブを紹介する記事やテレビ番組も多く清貧とは全く違う世界に憧れる。
ギャンブルや金持ちは好きだが金や金儲けは否定的する、この屈折した感情は何だろうか。この意識は、江戸時代に生まれたという説がある。徳川家康が各藩に金が貯まらない制度を作った影響らしい。藩に参勤交代で多額の費用を使わせたり、士農工商の身分制度で商人を最下位にした結果、質素倹約が社会に定着したのである。
お金への否定的な意識は戦後教育のせい
しかし、江戸時代は、米の先物取引が行われる程経済が発達し、紀伊国屋文左衛門や三井、住友などの豪商が生まれた。紀伊国屋文左衛門は、吉原の料亭の二階から小判をばら撒いて喜んだ。ZOZOの前澤さんは、お金をフォロワーに配り、宇宙旅行で大金を使った。金持ちの精神性は時代を問わない。
上杉鷹山は、質素倹約で有名だが藩の財政再建のためにそれをやっていた。江戸時代は資本蓄積が進んでいた、その時代に金に否定的な意識が生まれるとは考え難い。明治時代は江戸時代に蓄積された資本を土台に岩崎弥太郎や渋沢栄一、小林一三など数々の実業家が誕生した。江戸や明治に金が汚いとういう意識はなかった。
日本人が屈折したのは太平洋戦争の敗戦がきっかけである。GHQが行った公職追放や教育改革によって、政界や財界は右翼(資本主義)が主導し、教育界やマスメディアは左翼(共産主義)とリベラルが主導する構図になった。
教育界やメディアの共産主義やリベラルの人たちは、資本主義すなわち金儲けを否定した。学校では、お金の教育や啓蒙をせず金儲けは汚いものと教育した。テレビはお金儲けをする者は悪人とした番組ばかり放送した。窓辺太郎や十津川刑事が政治家と経営者を懲らした。新聞やテレビは、政治家は悪さをする人との印象を流し続けた。
東京地検は、田中角栄氏やリクルートの江副氏を逮捕して世間の喝采を浴びた。ワイドショーは江副氏やホリエモン、村上氏を、若造が投資であぶく銭を儲けるのはけしからんと叩き続けた。メディアがそれを繰り返しているうちに、お金は汚く金儲けをするやつは悪い人間という意識が社会に定着してしまう。
その陰で「金の卵を生むがちょう」の起業家たちは絶滅危惧種になっていた。今、メディアは起業家が生まれにくいのは経済界の体質だと批判している。勝手なものである。日本にベンチャーが生まれユニコーンが育つには、金儲けを否定する社会の雰囲気が変わらないと駄目だろう。
お金から自由になる法則はある
筆者は、20代に事業で失敗して落ちこんだとき、自分の中にお金は良くないものと思う気持ちがあるのに気づいた。お金に良い悪いはないを前提にお金から自由になるための戦略に取り組んだ。
お金に対する気持ちを切り替えた。お金に意味を与えるのは自分であり、お金は自由を与えてくれると信じて、貯めるための強い意志を持つ。次は金を貯める実践法を知ることである。借金との付き合い方は特に重要になる。収入の全てを返済に当てず半分は貯蓄する。金のガチョウは育てることが大切であり決して殺してはいけない。貯金と複利、投資、株、投資信託を活用することが重要になる。
1 一定の割合で貯金する
2 貯めたお金を投資する
3 自分の収入を上げる
4 このようにして得られた増収分から一定の割合を貯金する
お金から自由になる方法 ボード・シェーファー著 ダイヤモンド社
お金から自由になるためは、金にコントロールされずに自分がコントロールできることが必要である。そのために、ある程度の資産がいる。資産を増やす方法として、個人が取り組み易い貯蓄や投資を勧める。その実践方法こそが自由になる法則である。
資産を増やそうとすれば、強い意思が必要である、しかし意思があっても増やす正しい方法を知らないと増やせない。正しい方法を知っていても強い意思が無ければ成功しない。意思と正しい方法、両方が揃って初めて成功する。その両方を教えてくれる一冊。
この本は日本で絶版になっているようで中古しかない。最近の著書「フィナンシャル・フリーダム」も似た内容なので読まれたら良いだろう。
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