本 「働かない蟻に意義がある」 アリの社会と日本の会社
サラリーマンならパレートの法則を一度は聞いたことがあるだろう。イタリアの経済学者パレートが発見した、全体の数字の大部分は構成する一部から生み出みだされ、その割合が80:20になるというものだ。会社では、その法則とアリの生活が混同されて売上の80%は20%の社員があげている。残りの80%の社員うちの20%は働いていないと言われる。
会社の部課長は20%の厄介者をなんとかしようとするが、そう言われる社員たちは遊んでいるのだろうか。ほんとうに厄介者なのだろうか。パレートの法則と混同されるアリの働き方に答えはあった。
パレートの法則、働かない20%は正しい?
パレートの法則では働かない20%を除いても残りからまた20%が働かない社員になる。他の社員は、そんな理由から彼らがいても仕方がないと思っているが陰口は当然言う。「なぜあんな人が会社にいるのか」「あいつがもう少し頑張れば業績も上がるのに」「異動して欲しいよ」酒の肴にされて散々だ。上司は上司で、そのまた上の上司から、あいつらを何とかしろよと言われる。
アリの社会にも似たアリがいる。彼女たちは殆ど働かない。しかし怠けているだけではないらしい。
働かないアリにも、重要な役割があった
アリやハチは高度な社会性を持つので、「真社会性生物」とよばれる。他の社会を営む生物「社会性生物」より高度な社会を営むからだ。真社会性生物は他に、ハチやアリ、シロアリやアブラムシ、南方熊楠で有名な粘菌、哺乳類はハダカデバネズミがいる。最近、エビやカブトムシの仲間にも発見されている。
その社会は繁殖専門の個体と労働専門の個体で構成される。アリは卵を生む女王アリと少数のオス(王様アリといわれない)と働きアリである。少数のオス以外は、働きアリを含めて全てメスである。そんなアリの社会は人間社会に似ている。公園でウロウロ歩いているアリにも、人間の行動と同じような意味があるのだ。サラリーマンでいえば外勤だが悲しい理由がある。
そのアリの他に多くの内勤アリが巣にいる。そのアリに働かないアリが10%いるのだ(20%ではない)アリはイソップ物語の通り自分の仕事を真面目にこなしている。小さな脳しか持たないアリが組織を機能的に運営する姿はサラリーマンに似た愛おしいのである。
ダーウィンを悩ました働きアリ
「生存の確率を高め、次の世代に伝わる遺伝子の総量をできるだけ多くしたもののみが、将来残って行くことができる」と言い換えられます。ところが、真社会性生物のワーカーは多くの場合子どもを生まないので、「子孫を増やす」という右の法則とは矛盾する性質が進化してきた生物ということになります。
働かないアリに意義がある 長谷川英佑(佇) メディアファクトリー新書
その健気な働きアリ(ワーカー)の存在はダーウィンを悩ませた。進化論は「生物は自分の遺伝子を残すことを最優先する」は前提だが、彼女たちは自分の遺伝子を残そうとしていない。それは進化論に反する。
その疑問は「遺伝子を残さなくていいの?」「生物としてどうよ?」とダーウィンが言ったかどうかは別にして、生物学者を夢中にする課題だった。その答えは多くの学者が研究して、ダーウィンの死後に発見された。彼女たちは自分が卵を産まなくても自分と同じ遺伝子を残す方法を知っていた。
働きアリ(ワーカー)の仕事は、卵の世話、餌集め、兵隊だが、人のようには働らかない。70%のアリは普段は休んでいる。一生働かないアリも10%いる。しかし緊急事態になるとその10%も働く。巣が敵に襲われたり、大雨で巣が壊れそうになると猛然と働きだす。彼女たちは役に立たない存在ではなく、危機に備える重要な社会資源なのである。怠け者どころか巣の存続に欠かせない存在だったc。
勢力や裏切り者もいるアリの社会
アリの社会にいろいろだ。人の社会のように反社会的勢力や裏切り者が存在する。ワーカーなのに働かないで卵を産む働きアリ(チーターと呼ばれる)や、外部から来てコロニーを乗っ取る偽女王がいる。偽女王は特殊なホルモンを分泌して巣を混乱させた後仲間を真似た匂いを出して女王と入れ替ってしまう。
コロニーは反社会勢力によって衰退するが、全てのコロニーが絶滅することはない。反社勢力は人の社会と同じで健全な社会ないと存続できない。そのような存在は組織に揺らぎを与え種の多様性を維持するあるのかも知れない。
目次
①7割のアリは休んでいる。
②働かないアリはなぜ存在するのか。
③なんで他人のために働くの?。
④自分がよければ。
⑤「群れ」か「個」か、それが問題だ、終その進化はなんのため?
同著
アリの社会はヒトの会社とそっくり
アリを会社に当てはめると、女王アリが社長、ワーカーが社員で、オスが外部コンサルタントである。社員の大部分は文句を言いながらも愛社精神を持って毎日働く。働かない20%の社員だって愛社精神を持っている。裏切り者や反社勢力、フリーライダーもいるがわずかだ。
仕事は分業化されている。社員は与えられた仕事をする。仕事量が過度になるとブラック企業になり、社員は燃え尽きてしまう。全ての社員が100%以上の力で働かされた結果だ。短期的に上がっても長続きしない。事故や天災のような緊急事態が発生すれば、対応する余力は残っていない。
緊急事態は、会社を揺るがす大事件から部門単位の小さな事故まであるが、いずれも余力がなければ対応できない。機械を100%の出力で使い続けれたら壊れてしまうのと同じだ。車のハンドルに遊びのように組織もゆとりが必要だ。その余裕は腹八分目の80%程度が良いらしい。パレートの法則の80%と共通している。
会社は事故やクレームに対応する組織がある。平時は暇でも有事には絶対に必要だ。遊んでいるように見えても20%が必要なのである。ただ会社では20%がアリのように完全に遊んでいたら効率が悪い。そこでアリに居ない管理職、働く社員と休息する社員の仕事量を調整する役割が存在するのだ。
アリは管理職がいなくても組織を運営するが、人は高度な組織管理体制が必要になる。アリのスィッチは有事だけに入る人はもう少し複雑である。管理職は、組織に有事に備える余裕を残しつつ、休んでいる社員のスィッチをいれないといけない。スィッチをいれる、動機付けはカーネギーやドラッカーが大切というようにマネジャーの重要な仕事なのだ。
リストラされても頑張るアリ
誰しも子供の頃、アリが蝶の羽根やお菓子の欠片を巣へ運んで行く、そんな光景を見た記憶があるだろう。子供は飽きずに眺める。大人になると興味を失ってしまうが、大人になっても筆者のように子供心を忘れない人がいる。
筆者は進化生物学者でありフィールドワーカーでもある。夏の炎天下、公園でアリを追いかけたり、一匹一匹に印をつけたりするらしい。偉い学者や偏差値の高い大学生が、小さなアリを一生懸命追いかけている姿を想像すると愉快だ。このような科学者や学生がいる限り日本はまだまだ大丈夫だろう。
公園をウロウロしているアリはいったい何をしているのだろう。彼女は年を取ったので外勤(餌探し)に異動させられた。アリの外回りは危険が多くて死ぬ確率が高いので、死んでも損失が少ない高齢のアリが回される。合理的であるが厳しい判断だである。リストラされてもアリは文句は言わずに働く。
理由を知るとウロウロしているアリが愛しく見える。ゆめゆめ踏んだりしてはいけない。アリはどんな環境でも精一杯頑張っている。その姿は見習いたいものである。
昆虫が好きな方、管理職の方へ、面白い一冊。
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