本 「働かない蟻に意義がある」 アリの社会と日本の会社

2024年2月26日

パレートの法則はサラリーマンなら一度は聞いたことがある法則である。イタリアの経済学者パレートが発見した、全体の数字の大部分は構成する一部から生み出みだされ、その割合が80:20になるというものである。会社では、売上の80%は20%の社員があげていると言われる。さらに残りの80%社員の、そのうち20%は働かないとされる。

会社の組織では、20%の厄介者をなんとかしなくてはいけないと言われるが、その社員たちは本当に遊んでいるのだろうか、ほんとうに厄介者なのだろうか。パレートの法則と混同されるアリの働き方に答えがある。

パレートの法則、働かない20%は正しい? 答えはアリが教えてくれる

パレートの法則では、20%の働かない社員を除いてもまた20%の働かない社員ができる。だからその存在は仕方がないとされるが、社員は20%の社員の陰口をいうことになる。なぜあんな人が会社にいるのか、あいつがもう少し頑張れば業績も上がるのに、異動して欲しいよと、酒の肴になり散々だ。上司は上司でそのまた上の上司から、あいつらを何とかしろよと言われる。

アリの社会にも似た存在のアリたちがいる。彼女たちは殆ど働かないが怠けているだけかと言うとそうではないらしい。

働かないアリにも、重要な役割があった

アリやハチは高度な社会性を持つので、「真社会性生物」と言われ、その他の社会を営む生物「社会性生物」と区別される。真社会性生物には、ハチやアリ、シロアリやアブラムシ、南方熊楠で有名な粘菌、哺乳類ではハダカデバネズミがいる。最近はエビやカブトムシの仲間にも発見されている。

その社会は繁殖専門と労働専門の個体で構成される。アリは卵を生む女王アリと少数のオス(王様アリといわれない)と働きアリがいる。働きアリはメスのみである。アリの社会は人間社会に似ているところが多い。公園で地面をウロウロ歩くアリを見かけるが、彼女たちの行動には意味がある、サラリーマンでいえば外勤である。

そのようなアリがいる一方、巣には多くの内勤のアリがいて、そのなかに働かないアリが10%くらいいる。(20%ではない)アリはイソップ物語の通り、自分の仕事を真面目にこなしている。小さな脳しかもたないのに機能的な組織を運営する姿は人に似たところがあり身につまされる。

ダーウィンを悩ました働きアリ

「生存の確率を高め、次の世代に伝わる遺伝子の総量をできるだけ多くしたもののみが、将来残って行くことができる」と言い換えられます。ところが、真社会性生物のワーカーは多くの場合子どもを生まないので、「子孫を増やす」という右の法則とは矛盾する性質が進化してきた生物ということになります。

働かないアリに意義がある 長谷川英佑(佇) メディアファクトリー新書

ダーウィンはメスばかりの働きアリ(ワーカー)の存在に悩んだ。進化論は「生物は自分の遺伝子を残すことを最優先する」とするが、働きアリは自分の遺伝子を残そうとしていないからだ。遺伝子を残そうとしない生き方は進化論に反する。

遺伝子を残さなくていいの?、生物としてどうよ?とダーウィンが言ったかどうかは別にして、生物学者を夢中にする課題だったのは確かなようだ。その答えは、ダーウィンの死後、科学者たちによって発見される。彼女たちは自分が卵を産まなくても遺伝子を残す方法を知っていたのだ。

働きアリ(ワーカー)の仕事は、卵の世話、餌集め、兵隊だが、人のように働らかず70%のアリは普段は休んでいる。一生働かないアリも10%いる。しかしその10%も緊急事態になれば働く。巣が敵に襲われたり、大雨で巣が壊れそうになると猛然と働きだす。彼女たちは役に立たない存在ではなく、危機に備える重要な社会資源なのだ。怠け者でなく巣の存続に欠かせない存在なのである。

勢力や裏切り者もいるアリの社会

アリの社会にも、人の社会のように反社会的勢力や裏切り者が存在する。ワーカーなのに働かないで卵を産む働きアリ(チーターと呼ばれる)や、外部から来てコロニーを乗っ取る偽女王がいる。偽女王は巣を混乱させる物質を分泌して、その後に仲間を真似た匂いを出し真の女王と入れ替ってしまう。

反社会勢力はコロニーは衰退させるが、全てのコロニーを絶滅させることはない。反社勢力は健全な巣が存在しないと存続できないからだ。それは人の社会も同じである。反社勢力の存在も多様性を維持する仕組みかもしれない。

目次

①7割のアリは休んでいる。

②働かないアリはなぜ存在するのか。

③なんで他人のために働くの?。

④自分がよければ。

⑤「群れ」か「個」か、それが問題だ、終その進化はなんのため?

同著

アリの社会はヒトの会社とそっくり

アリの社会を会社に当てはめると、女王アリが社長、ワーカーが社員である。オスは外部コンサルタントようなものだ。社員は、毎日文句を言いながらも愛社精神を持ち働く。働かない20%の社員も愛社精神は持っている。裏切り者や反社勢力もいるがわずかである。

社員は分業化された仕事をする。仕事量が過度に増えるとブラック企業になり、社員は余裕がないことから燃え尽きてしまう。それは全ての社員が100%以上の力で働くいる状態だ。その会社の業績は短期的に上がるだろうが、長続きしない。また事故や天災のような緊急事態が発生すれば、対応する余力がなく大きな打撃を受けてしまう。

緊急事態は会社を揺るがす大事件から部門単位の小さな事故まであるが、いずれも対応できる余力がなければ対応できない。機械を100%の出力で使い続けれたらすぐに壊れてしまう。車のハンドルに遊びがあるように、組織もゆとりがなければ社員が疲れて機能しなくなる。その余裕は腹八分目という言葉があるように80%程度が良いらしい。パレートの法則の80%と共通しているのが面白い。

会社は事故やクレームに対応する組織がある。その部門は平時は暇そうに見えるが、有事には絶対に必要になる。各部門にも遊んでいるように見えても20%が必要なのである。ただ会社では20%が全く遊んでいたら効率が悪い。

そこでアリに居ない管理職が必要になる。働く社員と休息する社員の仕事量を調整しないといけない。アリは管理職がいなくても組織を運営できるが、人はもっと高度な管理体制が必要になる。アリのスィッチは有事にしか入らないが人はもう少し複雑である。

管理職は、有事に備える余裕を残しつつ、休んでいる社員のスィッチをいれないといけない。カーネギーやドラッカーが動機づけの大切さを述べているように、管理職の役目は社員のやる気スィッチを入れることなのである。

リストラされても頑張るアリ

アリが蝶の羽根やお菓子の欠片を巣へ運んで行く、そんな光景を子供の頃に見た記憶があるだろう。子供は飽きずに眺めるが大人になると興味を失ってしまう。だが、筆者のように大人になっても興味を失わない人がいる。

筆者は、進化生物学者でありフィールドワークも行う、夏の炎天下、公園でアリを追いかけたり、一匹一匹に印をつけたりするらしい。偉い学者や偏差値の高い大学の学生が、一生懸命小さなアリを追いかけている姿を想像すると愉快である。このような科学者や学生がいる限り日本はまだまだ大丈夫だろう。

前述の公園をウロウロしているアリはいったい何をしているのだろう。彼女はは年を取ったので外勤(餌探し)に異動させられたのである。外回りは危険が多くて死ぬ確率が高い。死んでも損失が少ない高齢のアリが回される。合理的であるが厳しい判断だ。会社で言えばリストラだが、アリたちは文句は言わずに働く。

そんな理由を知るとウロウロしているアリが愛しく見える。ゆめゆめ踏んだりしてはいけない。アリはどんな環境でも精一杯頑張っている、その姿を見習いたいものである。つらいけれど。

昆虫が好きな方、管理職の方へ、面白い一冊。

Posted by 街の樹