本 「 なぜジョブスはなぜ禅の生き方を選んだのか」 ビジネスと禅 

2025年3月18日

アップルの共同創業者、スティーブ・ジョブズを知る人は多いが、彼が禅に傾倒していたことを知る人は少ない。ジョブズは最先端企業アップルの経営に禅の心を活かし数々の素晴らしい言葉を残した。

その言葉を、ジョブズに精通する経済ジャーナリストの桑原晃弥氏と、彼を知らない臨済宗妙心寺派宝泰寺住職の藤原東演氏が解説したのがこの本である。ジョブズはなぜ禅を学んだのか、その教えはどのようにビジネスに活かされたか。禅とビジネス、一見対照的な二つに共通点が見えてくる。

ジョブスは働くのは人生だといった

自分の人生をキャリアとして考えたことはない。なすべき仕事を手がけてきただけだよ。それはキャリアと呼べるようなものではない。これは、私の人生なんだ。

スティーブ・ジョブス  なぜジョブスは禅の生き方を選んだのか 桑原空弥・藤原東演共著 PHP

「なぜそんなに働くのか」と聞かれたとき答えである。彼らは猛烈に働いた。やっていることが純粋に楽しかったのである。禅の修行は悟りを求めて自らが進んで行う。誰かにやらされるのでない。ジョブズたちはお金のためでなく製品を開発するために働いた。彼らにとって製品開発は仕事ではなく人生だった。

ジョブズが大学生の頃、学生は政治活動派とヒッピームーブメント派に別れていた。彼はヒッピー文化派に興味を持ち色んな宗教や思想に傾倒した。しかし満足できなかった。そんなとき東洋文化がヒッピー文化に大きな影響を与えたことを知り禅に興味を持つ。そこで素晴らしい禅僧と出会い実践を重んじる教えに傾倒していく。その頃の言葉である。

僕は知的理解より体験に価値をおいていた。僕は知的、抽象的理解より、もっと意識のあるものを発見した人々に非常に興味をもった。

同著

藤原氏はその言葉を「冷暖自治」とする。水が暖かいか冷たいか、それは触るか飲めばすぐにわかる。ごちゃごちゃ考えるよりも体験すれば分かるのである。ジョブズは禅の「冷暖自治」の心に惹かれた。初心についても語っている。「仏教には初心という言葉があるそうです、初心を持つのは素晴らしいことです」桑原氏がそれを紹介すると藤原禅師が「発菩提心」であると答える。そんな形式で対話が進んで行く。

ジョブズの口語と禅語の対比

第一章「人生と禅」

本文は五章からなり、ジョブズの54の言葉と対比される禅語が説明されている。

第二章「ひらめきと禅」

第三章は「ビジネスと禅」

第四章は「忍耐と禅」

第五章は「一期一会と禅」

ライバルについて質問されたとき「ライバル?僕にはライバルはいないよ」とジョブズは答えた。禅では「自己啓発」である。

「変えられると本気で信じられる人こそが、本当に世界を変えているのだ」は「紙燭を消す」だ。

師に言われた言葉に確信が持てず悩んだ末の言葉「ここに無い物は向こうにもないからって、彼(禅の師)は正しかった」は「看却下」だ。

「五つの製品に集中するとすればどれを選ぶ、他は全部やめてしまえ。選ばないとリーズナブルだけどすごくはない製品しかだせなくなってしまう」は「座禅のみの精神」となる。彼らしい言葉だ。

「あの連中が僕のことで文句を言っているのは承知している。だけど、将来いつか振り返れば、今この時期が人生最高のひと時だったと思うだろう」は「梅花鼻をうつ」だ。梅は冬の厳しさを味わうからこそ、どの花より早く香り高い花を咲かせる。

ジョブズの口語と禅語の対比が素晴らしい。

「直感はとてもパワフルなんだ。僕は知力よりパワフルだと思う。この認識は、僕の仕事に大きな影響を与えてきた」は「空の意識」

「このあたりの偉大な会社の血統や、その伝統を守る方法を次の世代に伝える手助けをしたい。シリコンバレーにはずいぶん助けられたんだ、少しでも恩返しをしなきゃね」は「一本の大樹」である。

ジョブズに先んじた日本の起業家たち

日本にもジョブズのように働く人たちが高度成長期には多くいた。ホンダの本田総一郎は通産省と喧嘩しながら自動車開発を続けた、クロネコヤマトの小倉昌男は郵政省に訴訟をおこされながらも宅配便を作った。ソニーの森田昭夫と井深大はトランジスタラジオを作り米国に挑戦した、京セラの稲森和夫はセラミックの用途拡大に全力を尽くした。彼らは自分の事業が社会のためになると信じて人生をかけたのである。

クオーツ時計を開発したセイコー、小型電卓のカシオとシャープ、人工透析器を開発した東京女子医大と東レ、技術者たちは寝食を忘れて働いたのである。それは内橋克人の著書「匠の時代」に詳しい。製品開発は当時の企業人にとって仕事ではなく人生だった。只管打座だったのである。

日本人に禅の精神がある限り、日本は大丈夫

すぐれた家具職人は、誰も見ないからとキャビネットの背面を粗悪な板で作ったりしない。ジョブズは美しい製品をつくることに全力を尽くしている。コンピューター内部の基板にまで美しさを求められたデザイナーが、「誰が中までのぞくのですか」と質問したところ、答えは「僕がのぞくのさ」

同著

何かを生み出す人の行動には感動がある。ジョブズは経営者というより芸術家に近い。その言葉は投資家やトレーダーの言葉とは一味違う。投資家は金を集めることが仕事だが禅は捨てることだ。金儲けと禅は共通点が少ないが物作りとは共通点が多い。

今メディアから聞こえて来るのは、日本の技術開発力は世界から大きく遅れたとの悲観論ばかりだ。米国はもとより、中国に学べ韓国や台湾に学べの大合唱である。日本人がノーベル賞を受賞すれば今後は取れなくなるといい、トヨタが最高益を上げれば電気自動車へのシフトで没落するという。

なぜ快挙を素直に喜べないのか、将来に不安があるならに立ち向かえば良い。むやみに卑下したり他者の評価を気にしてどうするのだろう。ジョブズたちは評価を気にするより、目標に向かってひたむきに進む大切さを禅から学んだ。日本人も彼らのように仕事に没頭することが必要である。今こそ禅の教えを活かすときなのだ。

彼の言葉を知ると禅の精神が有る限り日本はまだまだ大丈夫だと感じる。禅を学べば働き方が変わる。人生の一時期、ジョブズたちのように仕事に打ち込めたら人生は豊かになるに違いない。