本「承認欲求 認められたいをどう活かすか?」承認欲求を仕事に活かす方法
現代は承認欲求の時代と言われる。誰もがSNSによって自分の意見や作品を世界に発信でき、多くの人たちから評価を得られるようになった。20数年前まで、芸能人や政治家を除けば、庶民が知らない人たちに評価されることはなかった。顔見知り魚屋のおばさんが褒めてくれたり飲み屋の親父に悪口を言われても、隣の街の面識にない人や地球の裏側に住む人から評価されることはなかった。

承認欲求の時代
それが今はSNSによって、遠い国の田舎の少女がスターになったり、無名のコメディアンの歌が世界的にヒットする。個人が世界の人々に自分の価値を問える時代になったのである。その影響で評価を得るため突拍子もない事をやらかす人が出てきた。コンビニの冷蔵庫に入ったり、回転ずしの割箸を舐め外食ビジネスのモデルを破壊することも厭わない。ビルの屋上から落ちるロシア人や奔放に肢体を晒す女性たち、過激な投稿をして逮捕される人という、もうなにがなんだか分からない状況になっている。
SNSの評価はいいねの数で表される。コメントは辛辣なものがあるが、いいねは誉められるだけなので気楽で嬉しい。いいねを求める行為は人に備わった承認欲求がなせる業である。その効果は凄まじく麻薬のように心に浸透している。承認欲求をいいねボタンで満たす仕組みを考えた人は天才と言われている。
いいねという麻薬
霊長類は6500万年前に地球に誕生した。ホモ・サピエンスが現れてから20万年、人類が文明をもってから4000年、その間人は常に他者の承認を求めてきた。人は生存競争の戦略として集団で暮らし、集団を維持するために社会性を発展させた。社会を維持するために重要な仕組みの一つが承認欲求なのである。
社会の安定は所属する人間が社会を混乱させないことが重要になる。個人は集団の多数が認める行動をしなくてはいけない。個人の言動は他者の承認が必要になる。人の脳は承認を得る言動を取るように、報酬としてエンドルフィン(快楽ホルモン)を分泌するように進化した。人は他者から承認されると快感を得る。逆に否定されると孤独になる。
いいねはエンドルフィン分泌の押しボタンなのだ。麻薬は脳に快感をもたらし依存性がある物質と定義される。いいねは物資ではないが立派な麻薬と言えるだろう。ロルフ・ドベリは「NEWS DIET」でSNSを止める有益さを述べている。アンデッシュ・ハンセンは「スマホ脳」でスマホを見続ける危険を警告している。だが承認欲求は人が社会を営むうえで重要な機能なので止められない。現代人の脳はいいねに依存しているのである。

承認欲求はお互いの顔が分かる共同体で発達した
人はお互いの顔が分かるくらいの小さい集団で暮らしていた。承認欲求はその規模の共同体で発達した。承認は共同体の価値観や規範に従って行われ個人の行動は制限される。共同体の規模は承認する人も承認される人々も直接会う機会があるくらいだ。そのため自ずから承認や否認に責任が伴うことになる。
しかしSNSは匿名なので責任や制約が存在しない。暴走しても許される(あってもアカウントの停止等わずかである)現代科学は身知らない人にまで承認を求める欲求を生み出した。他者から得られる承認の数が爆発的に増えたことから得られる快感も倍増した。脳は一度覚えた快感を忘れない。共同体を維持するための承認欲求が快感を得る手段に変質している。
社会共通の価値観への信頼が崩れ・・・中略・・・「価値ある行為」によって社会から承認を得る道は、かなり限定されたものになってしまう。・・・中略・・・その結果、ごく身近に接している人々に気に入られるどうかだけが、承認を維持する唯一の方法に見えてくる。
「認められたい」の正体 承認不安の時代 山竹伸二 講談社現代新書
現代は人の価値観が多様化して社会は細分化されている。個人は細分化された社会に所属しその価値観に制約された承認を得るために自己を規制しながら、SNSで制約を受けない不特定多数の承認を求める。二つの分裂した承認欲求を持って生きるのは疲れるだろう。
会社と承認欲求
承認欲求といえば「マズローの欲求5段階説」が有名である。人は生まれながら5つの段階の承認欲求を持つ。一段階の欲求が満たされると次の段階へ移る。それは、生理的欲求、安全の欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現と進む。承認欲求は人格や能力を高く評価されたい欲求だ。衣食住が足りると名誉が欲しくなる。
マズローの説は脳科学や進化心理学の進歩によって修正され、現在はダグラス・ケンリックの段階説やクレイトン・アルダファーのERG説が主流になっている。心は進化によってデザインされたので生殖が究極の欲求になる。ケンリック説は、マズローの最終の欲求「自己実現の欲求」を「繁殖(家族)の動機」にする。自己実現に成功すれば社会的地位が向上し他者から高い評価を受ける。異性にもてて遺伝子が残せる。子育てをするのが究極の欲求になる。現在の日本の少子化を見ていると疑問を感じるが、どの説でも人は承認欲求から逃れられない。
日本人の承認欲求は少し変わっているらしい。承認欲求を直接的に表現しないのだ。競技で良い成績を出したスポーツ選手は自分は凄いと言わず(言う人もたまに居るが)、みんなが言ってくれるのを待つ。欲求を表に出さないけれど他者が評価してくれるのを渇望する。
その特徴はビジネスの世界にも現れる。マズローの自己実現はキャリアアップの動機付けに相応しい。キャリアアップの動機は自己実現というよりも承認欲求が強いが、自己実現の段階は承認欲求の段階により上にあり、言葉自体も高尚に思われるから使われる。サラリーマンは金や株などの外的モチーベーションと、承認欲求という内的モチーベーションに動機付けされるが現実に会社を動かしているのは承認欲求なのだ。

承認欲求を良く活かす
ある会社が営業員の出社は週1回で良いと決めた。そうすると出社日数が少なくなるので部屋と机は必要ないだろうと無くしてしまった。出社時は会議室を使うことにした。ある会社は名前に役職をつけず「さん」付けで呼ぶことした。あっという間に社員のモチベーションが下がった。社員の承認欲求が満たされなかったのである。
メディアはリモートワークを高く評価するが、モニター越しに褒められるのと、現実に肩に手を置きながら「よくやった」と言われるのは全く違う。人の脳は小さな共同体で暮らしたころから変わっていない。リモートワークは効率的であってもモチベーションの維持が難しくなる。
承認欲求は仕事の原動力になるが、満たされないとやる気の喪失や嫉妬に繋がる。欲求と満足のバランスについてうまく書かれているのが「承認欲求 認められたいをどう活かすか?」である。管理職が読むと良い一冊。
承認欲求と付き合うには、欲求から逃れられないと知ること、承認欲求を肯定することである。うまく付き合えれば、仕事の強力なサポーターになってくれる。
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