本 「カーネギーの道は開ける」悩みは解決できる 

2024年11月19日

たいへん恥ずかしい話だが、最近まで「道は開ける」の著者は鉄鋼王のアンドリュー・カーネギーだと思っていた。事業を成功させるまでどのように道を開いたか、の伝記だと思い込んでいた。それで何となく読まずに来たが手に取ってみると立身出世物語とは全く異なる悩みへの対処法だった。

悩みを解決するのは行動である

筆者デール・カーネギーは、数多くの著書がある高名な作家だった。思い込みというバイアスに落ち入って今まで読まなかったことを残念に思う。

彼は、「悩み」についてのあらゆる本を読破したが、それは心理学、精神医学、哲学、宗教、伝記と多岐に渡っている。そのうち一冊でも我々が読了しようと思えば多大の努力を要する専門書が多い。カーネギーは、これら数多くの専門書読みこなし、噛み砕き、整理し直したうえで我々に提供してくれたのである。

道は開ける デール・カーネギー(著) 香山晶(訳) 創元社 から訳者の言葉

この本には実に多くの人物が登場する。古今東西の、宗教家、哲学者、科学者、心理学者、政治家、軍人、事業家、歌手、役者たちだ。キリストやムハマンド、古代ローマのストア学者、マルクス・アウレリウス、エピクトテスから、ヘンリー・フォード、ルーズベルト大統領やチャーチル首相、ボブ・ホープ、両親、知人、読者が取り上げられている。

この人たちに関する書籍を全て読もうとすれば一生かかっても時間が足りない。カーネギーは悩みの解決法をその著書や逸話から抽出してくれた。読者は、引用するのが歴史上の人物ばかりだと、歴史に残る人だからこそ解決できたのだ、自分には無理だと諦めてしまう恐れがある。それを防ぐために普通の人たちも登場する。普通の人たちが悩みを克服した話を読むと自分もできると思える。

悩みは自分の心にある、ありようを変えれば解決できる

語られるエピソードはどれも感動的である。うつ病に悩むある女性は貧しい兄弟を助けたことで病気が治った。ある男性はあと半年の余命宣告を受ける。彼は旅行社と交渉して棺桶を持って世界旅行に出る決心をした。旅から帰る頃には病気は治癒していた。一人の母親は貧困に耐えかね子供と心中しようと考える。実行しようとしたその時ラジオから賛美歌流れた。彼女はそれを聞いて思いとどまったのである。

極貧に負けそうになった夫婦が信仰によって救われ子供を育て上げる話。コンプレックスを逆手にとり成功した実業家や歌手の話。それはカーネギーが実際に会って聞いた話や手紙で寄せられた。彼らにとって悩みというには大きすぎる危機だが、偶然の出会いや出来事によって乗り越えられた。もう駄目だと思ったとき、不思議な偶然にであい心の持ち方が変った。心の持ち方を変えれば悩みを克服できるのである。

カーネギーの悩みを解決するステップは七つある。どのステップも73年前に書かれたと思えないほど新鮮である。

・悩みに関する基本事項

・悩みを分析する基礎技術

・悩みの習慣を早期に断つ方法

・平和と幸福をもたらす精神状態を養う方法

・悩みを完全に克服する方法

・批判を気にしない方法

・疲労と悩みを予防し心身を充実させる方法

今を全力で生きる、それが全ての解決方法

カーネギーが紹介する悩みを解決する最良の方法は今を全力で生きることだ。未来や過去に囚われてはいけないのである。ウィンストン・チャーチルは「私は忙しすぎる、悩んでいる暇などない」と言った。ある初老の婦人は一人暮らしで友人も無く、生活にも困窮して人生に絶望していた。彼女は小さな商売を始める。忙しく働いている間は孤独や貧乏を忘れられるからだった。気がつけば貧乏をから抜け出していた。働いていると悩みを忘れ、全力で生きれば悩みを解決できる。

空間は実在するか (インターナショナル新書)

橋本淳一郎は「空間は存在するか」で、あなたがタイムマシンで旅をして過去に着いたとする、過去に着いたとしても、あなたにとってその時間は今なのだという。人には現在しかない。変えられない昨日やどうなるか分からない明日を心配しても何もできない。

「前後際断」は道元禅師の言葉だ。「薪は薪の法位にしてさきありのちあり、前後がありといえども前後裁断あり」過去と未来にこだわるのを止めて絶対の現在に生きるべきなのだ。

原題は「How to Stop Worrying and Start Living」

悩みで苦しんでいる人は「道は開ける」を読むべきだ。早く手に取っていればと後悔する前に読むべきである。「How to Stop Worrying and Start Living」原題を知っていればもっと早く読んだに違いない。「早くいってよ~」のCMのような気持ちになるが、過去にこだわるのはやめよう。悩みは次から次へと湧いてくる、すぐ読み返せるように座右に置きたい一冊。

Posted by 街の樹