本 「GIVE&TAKE 与える人ほど成功する時代」 ギバーの成功の秘訣
筆者アダム・グラントは、ペンシルベニア大学ウォートン校史上最年少の終身教授で組織心理学の専門家である。彼は教鞭をとりながら膨大な実証研究を行い人間のタイプに3種類があることを発見した。ギバー(人に惜しみなく与える人)、テイカー(真っ先に自分の利益を優先させる人)、マッチャー(損得のバランスを考える人)だ。更にその三つのタイプと成功との関係を調べた。それが本書である。
ギバー、テイカー、マッチャー
私たちは普段「ギブ・アンド・テイク」や「持ちつ持たれつ」を行いながら損得のバランスを取っている。多くの人がバランスを取るマッチャーだが、それ以外にギバーやテイカーと呼ばれる人たちがいる。ビジネスや教育、スポーツ界の著名人にギバーとテイカーが多い。グラントは、ギバーとテイカーの人柄と言動、業績について、最新の行動科学と膨大な実証研究に基づいて分析した。その結果は腑に落ちるものだった。
とは言ってもギバーはいつもGIVEしていてテイカーもTAKEばかりしているわけでは無い。それでは生活が成り立たない。状況においてGIVE&TAKEを繰り返している。その違いは、ギバーは与えるときに見返りを考えない、テイカーは後に見返りがあると考えたときに与える。マッチャーはひとつ貰えばひとつ返そうと考える。
ギバーは常に相手の利益を考えるので成功から遠い所にいて、テイカーは自分の利益を優先するので成功していると予想した。しかしギバーに成功者が多くいて、テイカーとマッチャーの成功者はほどほどの数にとどまったことに驚く。
ギバーの能力とは
ギバーは相手の利益を優先するのにどうして成功するのか。投資家デビット・ホーニックの行動が紹介される。ホーニックは投資家であり、常に契約先の利益を優先することを心がけて仕事をしていた。ある案件で顧客ダニー・シェーダーに出会う。ホーニックはダニーの利益を考慮して契約の納期を切らないでアドバイスを続けた。そうしているうちにダニーが別の投資家と契約してしまう。
ホーニックは失望したが、シェーダーもまた彼と契約をしなかったことを後悔する。ホーニックが常に自分の利益を優先してくれたからだ。シェーダーは悩んだ末に彼と再契約をする。シェーダーは契約後ホーニックの能力の高さを知って驚く。そして他の起業家に彼を紹介するようになる。ホーニックは契約以上の成功を納めたのである。ギバーの成功はこのようなものだ。
ギバーが持つ成功する能力は以下の4つである。
①「ゆるいつながり」の人脈づくりができる。
②利益の「パイ」を大きく増やす働き方ができる。
③他人の可能性を掘り出し精鋭を育てる。
➃「強いリーダーシップ」より「影響」を与える。
この能力によって成功したギバーには、リンカーン大統領、世界一の人脈を築いたコンピューターオタクのアダム・リフキン、人気アニメ番組「シンプソンズ」を作ったジョージ・マイヤー、オバマ大統領の側近レジー・ラブ、多くの会計士を育てたスケンダー教授、NBAの名コーチ、インマンがいる。
ギバーの特長は、自分が成功するだけでなく関わる人たちも成功させることだ。彼らは独自のコミュニケーション力を活かして他人を成功させようとする。自分の人脈、影響力を他人のために使おうとする。
ギバー対するテイカーには、エンロンのケネス・レイ、有名建築家フランク・ロイド・ライト、NBAのマイケル・ジョーダン、ポリオワクチンを開発したジョナス・ソークがいる。いずれも成功者として名高いが、最後に凋落している。
テイカーの特徴は人脈を強引に構築する、今あるパイを奪おうとする、何でも自分でやろうとすることだ。彼らはそれが人並以上にできる能力と強いリーダーシップを持っている。そのような才能に満ちたテイカーも最後に凋落する。その理由も彼らのエピソードによって明らかになる。
古代中国、漢の劉邦と楚の項羽は中原の覇を争った。劉邦は教養がなく戦も弱く仕事は部下に任せっぱなしだった。対する項羽は教養があり戦いに強く強力なリーダーシップを持って率先し戦った。劉邦は殆どの戦いに負けて逃げ回ってばかりいた。しかし劉邦は最後に勝利した。項羽が敗れるときの四面楚歌の逸話は名高い。
司馬遼太郎は「項羽は才能に恵まれた天才だった、かたや劉邦は才能というものを殆ど持たなかったがその器は限りなく大きく、どのような才能でもその中に入った」と評している。フォードを興したヘンリー・フォードは学歴がなかった。新聞記者はそれを蔑んでフォードに難しい質問をした。一種のいじめである。そのときフォードは学者に電話をしながら言った。「私には何でも教えてくれる人たちがいる。それで不自由はしないよ」
成功するギバーは他者志向
グランドは、ギバーでありながらも成功から遠くにいる人も発見する。ギバーはときに自己犠牲の精神に陥いり、自分ひとりが消耗してしまうことがある。そうなると成功できない。ギバーが本来の力を発揮するのは他者を助けようするときだ。教師コンリー・キャラハンは全米一の不良高校に派遣され消耗したが、生徒たちを助けるために奮闘し学校を立て直した。グラント自身の他者を助けるボランティアの経験も語られる。
監訳者・楠木建はギバーの成功は「情けは人のためならず」の結果と述べている。ギバーは相手の立場と利益を考える。控えめに話し他者へのアドバイスを厭わず、自分の弱みを見せて間違えば謝ることができる、その性格が人に好かれる。だからギバーが見返りを求めず施した恩は倍返しになって自分に返ってくるのである。
ギバーの本質は楠木建の「監訳者のことば、人間の本性を見据えた骨太の書」の章を読むだけでも理解できる。忙しい人はまずここだけを読んでも良い一冊。
ギバーになる方法はあるのか
巻頭文に「読めばついついと心と体が動いてしまう本」と書かれている。まさにその通りであり体が動きそうになる。しかし同時に自分はギバーかテイカーか、それともマッチャーなのかを考えてしまう。自分がギバーであってほしいと思うほどギバーは魅力的だが、どうも自分はそうではないと気づいてしまう。
筆者はそのような人のためにギバーになる方法を用意している。ギバーでないが、ギバーのように成功したいと思うえば読むべきところである。その秘訣は行動にある。行動することが意識を変えるのだ。ギバーのように振舞えば良いのである。
日本には「情けは人のためならず」「陰徳を積む」の諺や「花咲爺さん」「こぶとり爺さん」など見返りを求めない人が得をする民話が多くある。日本はもともとギバーを大切にする文化があり、日本人はギバーの性格を多く持っている。だが本書に登場する人のように大きく成功する人は少ない。
その理由は自己犠牲と他者指向の差にある。日本人は他人を助けるために行動するより自分が犠牲なろうとする。人様に迷惑をかけないという意識が自己犠牲につながる。日本のギバーも米国のギバーのように、もっと他者志向で行動すれば大きく成功できるはずだ。
個人の人脈が重要な米国社会
日本では米国のビジネスモデルがたくさん紹介されている。マーケティングや人事組織、ビジネススキルに関する内容が殆で、緩い人脈の繋がりに触れたものは少ない。この本を読むと米国のビジネスの本質は人脈や心の繋がりであることがわかる。
アダム・リフキンは緩い人脈によって成功した。ドラッガーはやる気を出させるコミュニケーションを重視した。トム・クランシーの小説の主人公ジャック・ライアンは個人の人脈で核戦争を食い止める。ナイキのフィル・ナイトは日商岩井の社長と強い絆を持っていた。
米国のドラマは主人公が人脈を使って事件を解決するストーリーが多い。日本に比べ個人の人脈がはるかに重要である。アジアの国々も同じである。日本だけが会社や組織に頼り会社の肩書で仕事をする。日本企業はかつて世界経済を席巻したが中国や米国の企業に押されて久しい。その原因の一つに人脈づくりの下手さが有るのではないか。
日本人は人を助ける意識を昔から持っている。ギバーの能力である(ゆるい)人脈づくりの力が身につけば、世界で通用するギバーになる人は多いだろう。自分をギバーにするために読むべき一冊。
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