本 「Think clearly」より良い人生を送るための52の思考法

2024年9月17日

人生は気づかない事だらけだ。少し視点を変えれば簡単に気が付づくのに見過ごしてしまう、この本にはそんな人生の知恵が52もある。最初は「より良い人生」である。誰しも「より良い人生」を望み「より良い人生とはどんな人生か」を考えて目標にする。

より良い人生とは何か、お金があること、健康であること、家族に恵まれる、社会的な地位を得ること、それは状況よって変わるので、定義をするのは案外難しい。それより定義の簡単なものがある。「より良い人生を邪魔するもの」だ。定義の難しい「より良い人生」を追い求めるより、邪魔するものを避けるほうが効率的だ。ドベリの発想の転換がここにある。

筆者は52の思考法を「思考の道具箱」と呼ぶ。この道具箱からふさわしい工具を取り出して、私たちの目から鱗を落してくれる。第8章に反生産性という考え方がある。科学技術の発達によって現代社会は効率化されたというが、本当に効率が良いのだろうか。便利になった代表の自動車の速度を反生産性によって計算すると平均速度はたった6キロしかないのである。

反生産性が示すもの

あなたは、自分の車の「平均速度」は現実にはどのくらいだと思うだろうか。

社会評論家イヴァン・イリイチが、車の購入費を稼ぐための労働時間とか、車の保険料や維持費とか、ガソリン代とか、交通違反の罰金を支払うために必要な労働時間を考慮にいれ、渋滞時間の時間を加えて計算するとアメリカ車の平均速度は「たった6キロ」程度だった

イリイチはこの現象を「反生産性」と名付けた。「テクノロジーの多くは、一見それによって 時間とお金を節約できているように見えても、実際のコスト計算してみたとたん、その節約分などは消えてしまう」ということを示している。

Think clearly  ロルフ・ドべリ(著) 安原実津(訳) サンマーク出版

この計算法でスマホの効率を計算したらどうなるのだろうか。電車に乗れば、殆どの人が同じ姿勢でスマホに見入っている。彼らはスマホからたくさんの情報を得ている。情報を与え続けられているとも言える。

スマホが無い時代、乗客は本や新聞を読むか、車窓の風景を眺めて考えごとをしていた。今は氾濫する情報に晒され考えることをしない。脳を使う時間が随分減っている違いない。スマホは人を幸せにしているのだろうか。

「反生産性」は進化したと言われる技術の本当の効率を明らかにする。当たり前と信じる物のなかに、必ずしも人を幸せにしない物がある。それが分かれば避けられる。より良い人生のためには、妨げるものを見つけることから始めるべきなのである。ちなみにEメールの費用を「反生産性」で計算すると、一本1ユーロとなり結構高い。

エピソードの宝庫

筆者は、最新の心理学や行動経済学、ストア哲学、投資家や起業家の思想、自分の体験と、皮肉が利いた文章によって、より良い人生を妨げる物を描きだしている。それは、私たちが思うよりずっと多い。

古代ギリシア哲学、最新の心理学、現代の流行、映画や音楽、高名な投資家やイノベーターが登場する。パブロ・ピカソ、ウォーレン・バフェット、ボブ・ディラン、パバロッティ、グリゴリ・ペレルマン、チャールズ・ダーウィンの息子の数え切れない教訓がある。囚人のジレンマ、しっぺ返し戦略、お金の幸福度、フォーカシング・イリュージョンなど、最近注目の理論も多く登場する。

能力の輪という考え方

人間は、自分の「能力の輪の」内側にあるものはとてもよく理解できる。だが「輪の外」にあるものは理解できない。あるいは理解できたとしてもほんの一部だ。

同著

本書はウォーレン・バフェットの言葉が多く引用されている。そのひとつに「能力の輪」がある。大富豪なのに質素な生活をおくるバフェットの生き方に共感しているからだろう。

「能力の輪」は自分の能力の範囲を指す。輪の内側は得意とする分野であり、外側は不得意な分野になる。バフェットは、成功の秘訣は輪の内側の仕事をすることにあると言う。IBMの創業者トム・ワトソンも、ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズも、そして筆者も「能力の輪」の内側で仕事をして成功した。

自分の持つ能力、特に得意な分野の能力がどの程度優れているかを見極めるのは難しい。不得意は上手くできないことから簡単に分かる。不得意な分野で成功に挑戦するのを止める、できそうにない仕事はしないを実行するだけで失敗を大幅に減らせる。能力の輪の内側は分からなくても、外側は簡単にわかる、分かればそれをしないのが成功の秘訣なのだ。

目から鱗の思考法

筆者は、彫刻家が一本の木から彫刻を掘り出すように、妨げるものを削ぎ落としてより良い人生を掘り出していく。新しい思考法は「反生産性」「能力の輪」など52章で語られる。一つの章は7ページくらいで読みやすい。好きな章から読んでも良いし一日1章と決めて読んでも良い。

今の社会はどこか間違っている、人生に疲れたと感じる人は読んでみると良い。人生の視点が変わり気持ちが楽になる。難点は、自分と知識の宝石箱である筆者を比較して落ち込むことだが、33章に「嫉妬を上手にコントロールしよう」が用意されている。良くできている一冊。