本 「Think clearly」より良い人生を送るための52の思考法
今の自分の人生を振り返れば気づかない事だらけだった。少し視点を変えれば簡単に気がつくのに見過ごしてしまった。そんな人生の知恵がこの本には52も詰まっている。最初は「より良い人生」の説明である。人は誰しもより良い人生を望み、それはどんな人生かを考える。
お金があること、健康であること、家族に恵まれる、社会的な地位を得ることがより良い人生なのか。良い人生の定義は置かれた状況よって変わるので案外難しい。それより定義の簡単なものがある。誰でも、より良い人生を邪魔するものは定義ができる。定義の難しいより良い人生を追い求めるより邪魔するものを避けるほうが効率的だ。ドベリのいう発想の転換である。
筆者は52の思考法を「思考の道具箱」と呼ぶ。ふさわしい工具を道具箱から取り出して読者の目から鱗を落してくれる。第8章に反生産性という考え方がある。科学技術の発達が現代社会を効率化したというが、効率はほんとうに良くなったのか。便利にした代表である自動車の速度を反生産性によって計算すると、平均速度はわずか時速6キロしかない。
反生産性が示すもの
あなたは、自分の車の「平均速度」は現実にはどのくらいだと思うだろうか。
社会評論家イヴァン・イリイチが、車の購入費を稼ぐための労働時間とか、車の保険料や維持費とか、ガソリン代とか、交通違反の罰金を支払うために必要な労働時間を考慮にいれ、渋滞時間の時間を加えて計算するとアメリカ車の平均速度は「たった6キロ」程度だった
イリイチはこの現象を「反生産性」と名付けた。「テクノロジーの多くは、一見それによって 時間とお金を節約できているように見えても、実際のコスト計算してみたとたん、その節約分などは消えてしまう」ということを示している。
Think clearly ロルフ・ドべリ(著) 安原実津(訳) サンマーク出版
スマホの効率をこの計算法で計算したらどうなるのだろうか。殆どの人が電車のなかでスマホを見ている。みんな同じ姿勢見入っているのは少し異様な感じだ。彼らはスマホからたくさんの情報を得ている。情報を与え続けられているとも言える。スマホが無い時代は、本や新聞を読むか車窓の風景を眺めて考えごとをしていた。今は氾濫する情報に晒され考えるのを止めている。脳を使う時間は随分減っている。考えない時間を減らすスマホは人を幸せにしているのだろうか。
反生産性は進化した技術の本当の効率を明らかにする。技術のなかには必ずしも人を幸せにしない物がある。それが何か分かれば避けられる。より良い人生は妨げるものを見つけることから始めるべきだ。ちなみにEメールの費用を反生産性で計算すると、一本1ユーロとなり結構高い。
エピソードの宝庫
筆者は、最新の心理学や行動経済学、ストア哲学、投資家や起業家の思想、自分の体験を例にしながら皮肉が利いた文章によって、より良い人生を妨げる物を描きだしていく。妨げるものは私たちが思うよりずっと多いのがわかる。
文中には、古代ギリシア哲学、最新の心理学、現代の流行、映画や音楽、高名な投資家やイノベーターが登場する。パブロ・ピカソ、ウォーレン・バフェット、ボブ・ディラン、パバロッティ、グリゴリ・ペレルマン、チャールズ・ダーウィンの息子の数え切れない教訓がある。囚人のジレンマ、しっぺ返し戦略、お金の幸福度、フォーカシング・イリュージョンなどの最近注目の理論も登場する。教養書として読むの良い。
能力の輪という考え方
人間は、自分の「能力の輪の」内側にあるものはとてもよく理解できる。だが「輪の外」にあるものは理解できない。あるいは理解できたとしてもほんの一部だ。
同著
著者は、ウォーレン・バフェットの言葉が多く引用されている。そのひとつに「能力の輪」がある。バフェットの大富豪なのに質素な生活を送る生き方に共感しているからだろう。
能力の輪とは自分の能力の範囲を指す。輪の内側は得意とする分野で外側は不得意な分野になる。バフェットは成功する秘訣は輪の内側の仕事をすることにあると述べる。IBMの創業者トム・ワトソンやビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズも筆者も「能力の輪」の内側で仕事をして成功した。
自分の持つ能力、特に得意な分野の能力がどの程度優れているかを見極めるのは難しい。不得意なことは上手くできないので簡単に分かる。不得意な分野に挑戦するのを止める、できそうにない仕事はしないだけで失敗は大幅に減る。能力の輪の内側は分からなくても、外側の仕事をしないのが成功の秘訣になる。
目から鱗の思考法
筆者は、彫刻家が一本の木から彫刻を掘り出すように妨げるものを削ぎ落とし、より良い人生を掘り出す方法を提案する。新しい思考法は「反生産性」「能力の輪」など52章ある。一つの章は7ページくらいで読みやすい。好きな章から読んでも良いし一日1章と決めて読んでも良い。
社会はどこか間違っている、人生に疲れたと感じる人は読んでみると面白いだろう。人生の視点が変わり気持ちが楽になる。難点は知識の宝庫のドベリと自分を比較して落ち込むことだが、33章に「嫉妬を上手にコントロールしよう」が用意されているから安心して読める。良くできている一冊。
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