本 「News Diet」 溢れるニュースは害である

ロルフ・ドベリは、50人のジャーナリストを前に「ニュースは害になる」をテーマに講演をした。彼が話しだすとガーディアンの編集室は静まり返った。ピンの落ちる音すら聞こえるくらいに。

彼は続けた。ニュースを読むのは時間の無駄である。ニュースは思考にバイアスをかける。ネガティブな記事は心理的不快感を与える。脳は情報の氾濫に晒されると変化して集中力を失う。ニュースは恐怖を社会に蔓延させる。良いことは一つもない。ニュースを遮断しても生活は悪くならない。記者たちの反感をかったが、彼の本は世界的なベストセラーになった。

ニュースの害

ニュースメディアは私たちにはなんらかの付加価値を提供することも、まとまった知識や深みのある分析をもたらすこともできないということを、コロナは示してくれたのだから。

ニュース ダイエット 情報があふれる世界でよりよく生きる方法 ロルフ。ドべり(著) サンマーク出版

ニュースの弊害の一つにネガティヴバイアスの利用がある。人はネガティブなことにポジティブの2倍反応する。ネガティブな情報が生存競争を勝ち抜くのに必要だった名残である。メディアは商業主義のもとにニュースをつくるとき、それを利用する。読者の注目を集めるため敢えてネガティブな情報を優先する。

その結果、ネガティブな情報の刺激的な断片を取り出した記事が増える。注目度は事実より重要であり、記事は真実から遠ざかってしまう。そもそもニュースの歴史は短い。わずか350年くらいである。それ以前、人はニュースの無い世界に住んでいたが生活に不自由しただろうか、とドベリは問いかける。

一般人は、年間2万件のニュースに接するが、自分に関係するものは2件もなく、自分の生活を良くすることに貢献しない。逆に、溢れるニュースは気が付かないうちに思考にバイアスをかけてしまう。脳の前頭葉の細胞を減少させ集中力や持久力が失われる。ニュースは世界中にテロの恐怖を寸時に撒き散らし、テロリストの最大の協力者になっている。

そんなニュースを読む必要があるだろうか、ドベリは言い自らニュースを断った生活を実践する。ニュースになれた現代人は、それが無い生活をするのは想像するのも難しい。そこで筆者がやって見せる。結果は、最初は辛くても慣れると不自由は無くなり、そのうえニュースの害がより鮮明になってくる。筆者はニュースを断つ生活、すなわちニュースダイエットは可能であると判断した。

ニュースは理解を妨げ脳を変える

トーマス・ジェファーソンは、180年前にすでにその状況を見抜いていた「何も読まない者は、新聞を読む者よりも教養が高い」事実は思考を妨げる。脳が事実のなかで溺れてしまうのです。

同著

180年前、トーマス・ジェファーソンはバイアスの害を既に指摘していた。ニュースを読んでいると、確認バイアスや後知恵バイアス、利用可能性バイアスなど色々なバイアスがかけられる。そのため自分で判斷しているつもりがいつの間にかニュースに操られてしまう。真実を得ようとニュースを読んでいるつもりが、逆に理解を妨げられている。真実はしっかりと推敲された論文や長文の記事の中にしかない。

複数のメディアを同時に消費する人ほど、前帯上皮質の脳細胞の数は少なくなる

同著

脳にも悪い影響を与える。以前は読書家だったのに、ニュースを熱心に読み続けるうちに、長文の記事や本が読めなくなったという人が増えている。最新の脳科学はニュースが脳を変化させる仕組みを明らかにした。膨大な数のニュースは、論理的な思考や衝動をコントロールする前帯上皮質の細胞を減少させ、深い思考や長時間の読書をする集中力を無くしてしまう。創造力も弱くなる。簡単に言うと馬鹿になるのだ。

コロナで示されたニュースの害

ドベリの指摘はコロナのニュースでも証明された。コロナの絶頂期、テレビは感染者数や死者数を必要以上に報道し恐怖を煽った。感染者数をリアルタイムで放送はすることは、一刻を争う災害と同じ緊急性があったのか疑問が残る。感染者数は報道されても、死者の年代や状況などの詳細は報道されず病気の全体像をを理解できる情報は少なかった。

ワクチン摂取が始まれば、さっそく副反応や変異株に有効性がないと恐怖を煽った。商業主義のもと視聴率を稼ぐためにネガティブバイアスが最大に利用されたのである

情報を否定せず自分で判断できる思考法を得る

第1章「私がニュースを断つまで」から「ニュースの未来」までの34章に、ニュースの害と断つ方法、メリットが簡潔が述べられている。私たちがニュースダイエットを完璧に実践するのは難しいが、その有害性を知るだけも読む価値がある。環境問題、ウクライナ紛争、テロ、人種問題、宗教紛争など、商業主義によって作られる刺激的なニュースが氾濫し、私たちの思考にバイアスをかけようとしている。そんなニュースに操られない思考法を教えてくれる一冊。

Posted by 街の樹