本 「News Diet」 溢れるニュースは害である

2024年11月5日

ロルフ・ドベリは、50人のジャーナリストを前に「ニュースは害になる」をテーマに講演をした。彼が話しだすとガーディアンの編集室は、ピンの落ちる音すら聞こえるくらいに静まり返ったそうである。

ニュースを読むのは時間の無駄であり思考にバイアスをかけられるだけである。ネガティブな記事は心理的不快感を与える。脳は氾濫する情報に晒され続けると変化し集中力を失う。ニュースは恐怖を社会に蔓延させる。良いことは一つもないのだ。彼がニュースを遮断しても生活は悪くならないと話すと、記者たちは反感を持ったが彼の本は世界的なベストセラーになった。

ニュースの害

ニュースメディアは私たちにはなんらかの付加価値を提供することも、まとまった知識や深みのある分析をもたらすこともできないということを、コロナは示してくれたのだから。

ニュース ダイエット 情報があふれる世界でよりよく生きる方法 ロルフ。ドべり(著) サンマーク出版

ニュースの弊害の一つにネガティヴバイアスの利用がある。人はネガティブなことにポジティブなことの2倍反応する習性がある。生存競争を勝ち抜くためにネガティブな情報が必要だった時代の名残である。メディアはそれを利用する。読者の注目を集めるために敢えてネガティブな情報を伝える。商業主義が優先するのだ。その結果、刺激的な断片を取り出した記事が増える。事実より注目度が重要視され、記事は真実から遠ざかってしまうのだ。

ニュースの歴史は短くわずか350年くらいである。それ以前、人はニュースの無い世界に住んでいたが、生活に不自由していたとは聞かない。人は一般に年間2万件のニュースに接する。そのうち自分に関係するものは2件しかなく生活を良くすることに貢献しない。逆に、溢れるニュースによって気が付かないうちに思考にバイアスがかけられる。脳の前頭葉の細胞を減少し集中力や持久力が失われる。

そんなニュースを読む必要があるだろうか、ドベリは自らニュースを断った生活を実践する。現代人は溢れるニュースに慣れてしまい、それが無い生活は想像するのも難しい。結果は最初は辛くても慣れると不自由は無くなった。それだけでなく害がより鮮明になった。ニュースを断つ生活、すなわちニュースダイエットは可能なのである。

ニュースは理解を妨げ脳を変える

トーマス・ジェファーソンは、180年前にすでにその状況を見抜いていた「何も読まない者は、新聞を読む者よりも教養が高い」事実は思考を妨げる。脳が事実のなかで溺れてしまうのです。

同著

トーマス・ジェファーソンは180年前にバイアスの危険性を指摘していた。ニュースは、確認バイアスや後知恵バイアス、利用可能性バイアスなど色々なバイアスをかける。自分で判斷しているつもりが、いつの間にかニュースに操られてしまう。真実を理解しようとニュースを読んでいるつもりが理解を妨げられている。真実はしっかり推敲された論文や長文の記事の中にしかない。

複数のメディアを同時に消費する人ほど、前帯上皮質の脳細胞の数は少なくなる

同著

溢れるニュースは脳に悪影響を与える。以前は読書家だったのに、ニュースを熱心に読み続けるうちに長文の記事や本が読めなくなった人が増えている。最新の脳科学がニュースが脳を変化させる仕組みを明らかにした。膨大な数のニュースに接し続けると、論理的な思考や衝動をコントロールする前帯上皮質の細胞が減少し、深い思考や長時間の読書をする集中力が無くなり、創造力も弱くなる。簡単に言うと馬鹿になるのだ。

コロナで示されたニュースの害

ドベリの指摘はコロナのニュースで証明された。テレビは、コロナの絶頂期に感染者数や死者数を常に報道して恐怖を煽った。感染者数をリアルタイムで放送はする必要があるのだろうか。一刻を争う災害と同じ緊急性があったのか疑問が残る。死者の年代などの詳細は報道されず病気の全体像を理解できる情報は少なかった。

ワクチン摂取が始まれば副反応や変異株に有効性がないと恐怖を煽った。視聴率を稼ぐためにネガティブバイアスが最大に利用された。真実より商業主義的成功が優先されたのである。

情報を否定せず自分で判断できる思考法を得る

第1章「私がニュースを断つまで」から「ニュースの未来」までの34章に、ニュースの害と断つ方法、メリットが簡潔が述べられている。ニュースダイエットを完璧に実践するのは難しいが、その有害性を知るだけも読む価値がある。環境問題、ウクライナ紛争、テロ、人種問題、宗教紛争など、商業主義によって作られる刺激的なニュースが氾濫し思考にバイアスをかけようとしている。そんなニュースに操られない思考法を教えてくれる一冊。

Posted by 街の樹