日本人の考え方 「おかげさま」と「ぼちぼち」

2025年8月6日

「お仕事の調子、どうでっか」(お仕事の調子は如何ですか)

「おかげさまで、ぼちぼちですわ」(おかげさまで、まあまあ良いですね)

昔から商都と言われる大阪の大阪商人の会話です。この会話の内容がわかりますか。「ぼちぼち」とはどういうこと。「おおかげさま」ってなんのことでしょう。

大阪商人の会話

「ぼちぼち出発の時間でっせ 」(ぼちぼち出発の時間です)

「そうでっか、ほな、ぼちぼちいきまひょか」(そうですか。それでは、ぼちぼち出発しましょうか)

「ぼちぼち」は関西でよく使われる言葉です。意味は大きく分けて二つあります。一つ目は「ぼちぼち始めまひょか」の「ぼちぼち」です。これは「そろそろ」の意味になります。「ぼちぼち始めまひょか」は「そろそろ始めましょうか」になります。

「ぼちぼち行まひょか」は状況によって意味が変わります。「のんびり歩いて行きましょうか」と「そろそろ出発しましょうか」のどちらかになります。どちらの意味になるかは状況次第です。

「子供さん、どうしたはります」(あなたの子供は元気ですか)

「おかげさんでぼちぼちやってますわ」(おかげさんで、ぼちぼちで生活しています)

二つ目はこんな使い方です。この場合「まぁまぁ良い」とか「悪くない」の意味になります。とても曖昧な返事です。この言葉の感覚は大阪以外の日本人にはわかり難いのですが、次に説明します。

この「ぼちぼち」に語源は無く江戸時代の中期からなんとなく使われ出したそうです

「ぼちぼちの意味は、音の響きで簡単に分かりますな」(ぼちぼちの意味は、発音で簡単に分かります)

「分かるのは関西人だけです」(それは関西人だけです)

「えらいすみまへん」(どうもすみません)

謎の言葉 ぼちぼち

「お商売のほう、どうでっか」(お商売は上手く行っていますか)

「ぼちぼちですな」(ぼちぼちです)

さて難しいほうの「ぼちぼち」です。大阪人は、商売が上手くいっているときも、上手くいかないときも「ぼちぼち」を使います。事実を曖昧にします。どちらが本当かは相手の顔色や表情で判断します。ここで大切なのは、相手が詳しく説明することを面倒と思っていることです。

ちゃんと答えるのは嫌だ。しかし強い拒否をして不快な雰囲気になるのを避けたい。そんなとき「ぼちぼち」とあやふやな表現します。だから聞いた人は深く追求してはいけません。

「ぼちぼちですな」(ぼちぼちです)

「ぼちぼち言うても、どれくらいでっか」(ぼちぼちと言っても、どれくらい上手く行っているのですか)

とやってはいけないのです。

「なんで、あんたにそれを言わんとあかんのや」(どうして、あなたにそれを言わないといけないのか)

と気まずくなることがあるので要注意です。「それは良ろしな(それは良いですね)」くらいの返答をして次の話題に移るのが良いのです。大阪においてこの「ぼちぼち」は挨拶の言葉と同じです。「今日はええ天気やね」と同じです。英語の「I’m fine」に近いかもしれません。

おかげさまの意味は

「おかげさま」の説明に「ぼちぼち」いきましょう。この言葉はビジネスの場面によく登場し、慣用句になっています。

「この度はありがとうございました。おかげさまでプロジェクトは順調に進んでおります」

「おかげさまで、契約がとれました」というように使います。

この場合「おかげ」は「あなたの協力や支援」を意味します。「あなたの支援」で仕事が成功したと感謝しています。ビジネスの使われる場合は感謝の対象がはっきりしています。ですが日常会話は違います。対象がはっきりしない事が多いのです。

「子供さん、どうしたはるの」(あなたの子供は、元気にしていますか)

「おかげさんで元気やってますわ」(おかげさんで、元気にしています)

「体調はどうや」(体調はどうですか)

「おかげさんで、調子ええわ」(おかげさんで、調子が良いです)

この場合は質問した人に感謝しているのではありません。いったい誰に感謝しているのでしょうか。それは仏様です。仏様の支援(加護)で子供は元気に暮している。仏様の支援(加護)で自分は元気でいられると仏様に感謝しています。

日本人、特に若い人の殆どは、仏教を意識せずにこの言葉使いますが、もともとは仏教に由来する言葉です。ではどうして「仏様のご加護」と言わずに「おかげ」というのか。

人は仏様の智慧と慈悲の陰で暮らしている

「おかげさま」は漢字で書くと「お蔭様」です。仏教の教えでは世界は仏様の知恵と慈悲で覆われています。人は知恵と慈悲の陰の中でで幸せに暮らしています。人は陰に感謝して「おかげさま」と呼びます。それが時間がたち、他人の親切や協力に対する感謝の言葉として使われるようになりました。

人は一人で生きていけません。家族や社会、自然、環境、あらゆるものに助けられて生きています。日本人は信仰を持たないと言われますが、無意識のうちに信仰を持っています。最近はSNSで不満をいう人が増えました。しかし、日本人の本来の姿は、色んなものに感謝して生きるものです。「おかげさま」はそれを象徴する言葉なのです。

もしあなたが「ぼちぼち」を使ったら大阪人は喜ぶでしょう

今日も大阪の街ではこんな会話が交わされています。

「まいど」(こんにちは)

「どうでっか、儲かりまっか」(商売の調子は如何ですか。利益は上がっていますか)

「おかげさんで、ぼちぼちやってますわ」(仏様のご加護で、のんびりやってます)

「そんな、焦らんでもよろしやん。ぼちぼちいきましょや」(焦らなくて良いでしょう。ゆっくり行きましょう)

「How about you」

「ぼちぼちでんな」

大阪人は外国の人が「ぼちぼち」を使うと喜びます。ただ東京ではこの微妙な感じは通じないかもしれません。