本「DIE WITH ZERO」金持ちしかやってはいけないお金の使い方 

2024年11月8日

自分が死を迎えたとき、お金か良い思い出かどちらがあったら嬉しいだろうか。実際にそのときが来たらどちらがあっても同じだが、そこに至るまでの人生の楽しさは随分異なりそうだ。著者ビル・パーキンスは、人生にはそのときにしかできないことがあり、お金を貯めるだけでその経験をしないのはもったいない、死ぬまでに必要なお金が貯まれば、残りは全て使って色々な体験して思い出を増やすべきだと言う。

筆者のお金の使い方の説明は具体的かつ明快であり腑に落ちる。だが使い切るタイミングが難しい。庶民は持っているお金の総量が少ないので、やりたい事ばかりをやったらあっという間に無くなってしまう。人間の社会にイソップ物語いるキリギリスを助けるアリは居ない。金を使い切り最低の生活を過ごすときの思い出は辛いだろう。

「DIE WITH ZERO」はよく考えて実践しなくていけない方法だが、お金と思い出についての考えは読む価値が十分にある。

DIE WITH ZERO アリはいつ楽しむ? 

まずは、有名なアリとキリギリスのイソップ寓話から始めよう。(中略)この寓話の教訓は、人生には働くべきときと遊ぶべきときががあるというものだ。もっともな話だ。だが、ここで疑問は生じないだろうか。アリはいつ遊ぶことができるのだろう。

DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール ビル・パーキンス(著) 児島修(訳) ダイヤモンド社

話はイソップ物語のアリとキリギリスから始まる。筆者は以前から真面目に働くアリが正しいとされることに疑問を感じていた。アリはいったいいつ遊ぶのだろう。アリだって楽しむ時があって良いはずだ。それが全体を通してのテーマになっている。

キリギリスは夏に遊んで食べ物を蓄えなかった。冬になると草は枯れ食べるものがなくなってしまう。キリギリスは空腹に耐えられずアリに食べ物を乞う。アリはキリギリスに食べ物を与える。ここで、ちょっと待てよになる、キリギリスは夏に遊んで楽しみ、冬はアリから食べ物を貰って空腹を満たす。

これでは得をするのはキリギリスばかりである。アリがキリギリスを見捨てる結末もあるらしいが、困ったキリギリスを見捨てるのは子供が読むのにふさわしくない、との配慮からかキリギリスは生き残るのだが、助けたアリはいつ楽しむのだろうか。

「DIE WITH ZERO」の誕生 

ビル・パーキンスは「Your Money or Your Life」を人生の指針にしている。日本版の装丁には「Getting all you can from YOUR MONEY AND YOUR LIFE」と入っている。お金を使おうと勧めるが「FIRE最強の早期リタイア術」と同じく無駄使いは勧めない。一般的なFIREの指南書はリタイアのための資産形成に重点を置くが「DIE WITH ZERO」は形成した(もしくは形成しつつある)資産(金)を有効に使うことに重点を置いている。

彼はウォールストリートのヘッジファンドマネージャーとして働くお金持ちである。あるとき医者に「あなたは資産をどうしたいか」と問われると「死ぬまでにお金をすべて使い切りたい、使って人生で色んな経験をしたい、金は年をとると使えなくなるのだから」と答える。医者はその考えに共感して本を書くように勧めた。そうして生まれたのが「DIE WITH ZERO」だ。

死を迎えたとき、望むのはお金か思い出か

彼が若い頃、ルームメートが休暇を取り3ヶ月のヨーロッパ旅行をした。彼はその思い出話を聞くと羨ましくなる。人生は、その時やその環境でしかできない体験がある。それは貴重な思い出だ。ルームメートはその思い出を作った。お金は使えば無くなるが思い出はいつまでも残るのだ。

ある年、パーキンスは父の誕生日に父が大学時代にフットボールをする映像をプレゼントした。父はとても喜び涙を浮かべた。彼はその喜ぶ姿から人生の最後に残すものは思い出だと確信する。お金が貯まれば使って素敵な体験をしよう、死ぬ時にお金がゼロでも良いではないか。色んな体験は投資と同じで思い出が配当になって返ってくる。

彼のお金を使い切るという意見に対して多くの疑問が寄せられた。老後(生活資金、不意の出費、長寿)資金は予測できない。財産は子供へ残したいと疑問は様々である。老後資金は最低限の生活を考えれば方法はある。子供に財産を渡したいなら生前にすれば良い。お金が必要な時期に受け取れて子供は助かるし、親は生きているうちに子供から感謝を受けとれる。

お金は生前に使うべき

ニューヨークに93歳の独身女性がいた。彼女は法律事務所の事務員をしながら820万ドルもの貯金していた。彼女は遺言によって全額を市に寄付した。寄付は尊いが自分のために財産をもう少し使っていたら、彼女の人生はもっと素晴らしかったのではないか。生前に寄付をしていたらたくさんの市民から感謝を受けて幸せを感じられただろう。死んでしまえば感謝を受けることはできない。

年をとればお金を使おうと思っても使えなくなる。年を取るほどお金の価値は低下していく。だから使えるときに使う。良い人生は金を使うタイミングが重要だ。ただお金がない人はどうするのだ。筆者はお金が無ければ無いなりに楽しめる体験を探せばよい、闇雲に金を使わなくても、年齢、金、健康、時間を最適化した範囲で体験を探すのが重要だと筆者は述べる。

使い切る決意より考え方を知る

筆者もFIREのクリスティ・シェンも大金持ちである。その彼らにお金は貯めるより使おうとか、老後の資金を最小化しようと言われると、金があるから言えるのだとやっかみたくなるが、彼らの成功は自分の努力の結果だから仕方がない。

彼らと同じようにお金を使えなくても、家族旅行やバーベキュー、映画鑑賞、好きな人と静かに過ごしたり、できることは色々ある。幸いにして思い出に値段はつかない。大金を使った宇宙旅行も節約して行った家族旅行も返ってくる幸せの配当は同じである。「ねぇ、あのときのこと覚えている」で会話が始まると共有した体験を思い出して会話が弾む。一つの思い出から次々と体験が思い出される。それが筆者が言う「思い出の配当」である。

誰も死後の世界は分からないが、お金を持って行けないのは確かなようだ。それなら生きているうちに使って色んな体験をしよう、使えば幸せになるという主張は腑に落ちる。庶民のお金は少ないが、この考え方を知ると貯金が減っても気が楽になる。お金が無くても思い出を作ろうという気になるのだ。

松下幸之助は不況の際に「こんな時やからこそ金持ちがお金を使わんといけません」と言った。金持ちがお金を使えば経済が回り庶民も幸せになる。成功者が「DIE WITH ZERO」をするのは社会にとって重要である。莫大な個人資産を銀行に眠らせる日本人が読むべき一冊。